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第16話 オーバーパス。


いつもお読み頂いてありがとうございます。

二巻発売記念にイラストレイターの鳴鹿様がXに絵を上げてくれたのですが、アリスターの初カラーでした。悶絶級の可愛さで。皆様も是非一緒に観覧いたしませんか?





 私はエース家の離れに集う三人が結婚適齢期を逃し気味なことに、多少の戦慄を覚えながらも、しかしながら、王太子殿下はそもそもバツイチに成り立てな訳で、別に適齢期を逃したわけでも結婚経験がない訳でもないことに気が付く。


 私も私でついこの間、第二王子殿下に婚約破棄されたばかりで、婚約者がいた経験は一応あるのだ。本当に一応だが……。


 次期魔法省長官を約束されたエース侯爵家の長男に結婚話がない? なんてことはあるだろうか? 貴族界の常識でいえば、それはないという事になる。



「ルーシュ様?」

「……却下だ」

「まだ何も言っておりませんっ」

「言わなくても分かる」

「その予測は確実ではありません」

「ほぼ予測通りだと思う」

「何故ですか? ルーシュ様の予測は前述の会話の流れから予測したものですよね?」

「まあ、そうだが。それだけで充分。お前が次に何を言い出すのか確定できる」

「カーブするかも知れませんよ?」

「もちろんカーブする可能性はある。でも今は99パーセントカーブせずにストレートで来る」

「何故?」

「表情と沈黙の長さと口調からだ。カーブする場合はカーブする前段階の片鱗が見える」


 えー。

 片鱗?

 洞察力、神ですか?


「ロレッタの最後の台詞が『全員婚約者がいない?』という疑問形だっただろ?」

「そうです」

「するとこの台詞の後にした沈黙の間は思考時間。何を考えたか? と言うと当然直前の疑問形に付いての深追いだ。普通に考えれば『なぜ婚約者がいない?』となる訳だ。シリルもロレッタも婚約者は公になっている。その上俺に話しかけてきたということは、俺に対しての疑問をぶつける訳だ」

「………」 

「つまり、俺の婚約者は? 的な質問になる」

「………」


 100パーセント大正解過ぎて、言葉が出なかった。


「大正解過ぎて、返す言葉が見つかりません………」

「誰でも分かる」

「………」


 誰でもは分からないと思う。

 少なくとも第二王子殿下は分からないのでは?

 推理小説の名探偵のような観察眼を持っていなければ難しい。



「頭の良い人にしか分からないと思います」

「残念ながら頭の良さではなく、注意力と観察力という技術なので、誰でも取得可能だ」

「私でも?」

「………もちろん」

「………」


 今、もちろんという力強い言葉の前に、少し間があった?

 向き不向きもある?


「そこは力強く肯定して下さい」

「勿論だ」


 ルーシュ様が食い気味に付け足してくれた。

 少し棒読み感が否めない。


「私は会得しにくい何かがあるのですか?」

「いや。お前にも充分取得可能」

「そうですか?」

「そうだとも」

「第二王子殿下にもですか?」

「…………………」


 やはり、そこ長めの沈黙。


「出来ませんか?」

「第二王子には出来ないだろうな? それは持って生まれた知能の問題ではなく、学びへの謙虚さの問題でだ」

「私は謙虚なつもりなのです」

「ロレッタは謙虚だと思う」

「じゃあ何故一抹の不安が?」

「……それはだな……。もちろん向学心もあり、努力も認める。ただ向き不向きみたいなものは存在する。それは当たり前だ。御者に向いている者。料理人に向いている者。誰だって得意不得意はある。ロレッタは少し素直すぎる性格と、思考の方向性が独特な事と、妄想に入りやすいという三点でそれほど得意分野にはならないかも? と内心で思っただけだ。気にしなくていい。あくまでも内心で僅かに感じたくらいだからな」

「……………」


 そうなのですね……。

 でも? 思考が独特って?


「独特ではありません。普通のつもりですっ」

「もちろんロレッタにとってはそれが普通なのだと思うし、意識している訳ではないということも分かっている。そして俺は長所だとすら思っているから、何の問題も無い。ただ客観的に見てパーセンテージの少なめな選択肢を選ぶな? と思っただけだ。これもある意味俺の主観ではあるから、気にしなくていい」

「パーセンテージの少なめな選択肢とはなんでしょうか?」

「それは例えばだな……第二聖女なのに職安に行こうと思う思考回路とかかな」

「大多数の方はどうするのですか?」

「親に相談だろ」

「?」

「いや、伯爵令嬢だし婚約破棄されたらそうするよな?」

「しません。だって貧乏伯爵の父ですよ? 娘が王子に卒業記念パーティーで指を指されて婚約破棄されたと知れば、ショックで気に病みませんか?」

「………いや……気弱な伯爵なら兎も角、シトリー伯爵は大丈夫だろ。まったく気に病みそうもないだろ」

「なぜ?」

「何故と言われても見たままというか……。六大侯爵家セイヤーズの次男。そんな程度で心が折れるような柔な教育は受けていないし、実際婚約破棄式で会った伯爵は、微塵も傷ついていなかった」

「そうでしたか?」

「そう見えたし、実際何のダメージも受けていない」

「父、意外でしたね」

「いや、意外ではないが」

「想定内でしたか?」

「まあ、想定内だな」

「そうなのですね」

「そうだな」

「でも、四日後に寮を出なければいけないのに、親に相談なんて悠長すぎませんか?」

「いや……。悠長って」

「一日でも早く仕事と住む場所が必要だったのです」

「住む場所は普通に親元だろ」

「貧乏でしたし、その頃はまさか父があんな性格だとは気付いていませんでした」

「そうなのか?」

「そうです。うだつの上がらない冴えない貧乏伯爵権力金なし。みたいな?」

「……随分な評価だな」

「そんな感じに見えたのですよ?」

「氷の魔導師なのに?」

「はい。氷の魔導師でも。家庭ではその凄さは分かりませんから」

「えー……」



 実際、婚約破棄式の時の父はなんだったのだろう? と今でも思う。あれはシトリー貧乏伯ではなく、水の魔導師の総本山セイヤーズ侯爵令息のスイッチだったのかな? 普段は穏やかな人なのだけど、穏やかなのに不貞不貞しい失礼モードというのも存在するらしい。自分の父なのだが、意外に知らない部分もある。娘には優しいだけの父親だったから。



 そんな父でも王立学園を卒業と同時に結婚しているのだ。

 ルーシュ様に婚約者がいないって、あるのかな?

 私はかつて会ったことのある、幼少期のルーシュ様を思い出していた。

 そう。時の止まった空間で会った、可愛くてふわふわのルーシュ様。





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