第15話 気付けば私達。
魔法大国において、王家の血統継承は雷。
それこそが必然。
今も昔もこれからも。
最強と謳われし者――
ちなみに聖女は自虐でもなんでもなく、属性中最弱なのでは? と疑いたくなる弱さだ。
そもそもが戦えない。
回復一択。
怪我をして回復。
しかも問題は瞬間回復ではないという時間の遅滞。
どうにもこうもならない。
そう思うと私は目の前にいるシリル様とルーシュ様をしみじみと眺めた。
攻撃魔法って凄いね?
無敵というか何というか。
攻撃力とスピードを手にした者の行く末は王なんだね。
その上、初代から連綿と続く体制である、『国王の妃は聖女』というルール。
最強の魔導師に、フォローワーの聖女。
王家に死角なし。
はた迷惑だった決まり『王子の妃は聖女』という国法。
もちろんその一文の後にただし――なんたらかんたらと条件が長々と続く訳だけど。
歳の頃とか、血縁の濃さとか、聖女不作イヤーとか色々あるから。
でもまあ、王家の威信にかけて必要なものなんだね?
王家の子供である第二王子がぶち壊しちゃったけども……。
そう考えるとバーランド第二王子という人も、王家の牙城を崩すのには便利な存在ともいえる。なぜなら彼は自分の欲望を理性でコントロールする技術を持っていない人間だから。色欲。七大欲求にも挙げられる。
一般的に人を陥落させるには、神が定める所による、七つの大罪を当て嵌めるのが良とされる。傲慢、嫉妬、憤怒、強欲、怠惰、暴食、色欲。
人はどれか一つくらい揺らぐウィークポイント、つまり強い欲望を持っているものだ。そこを調べる。もしくは観察して衝く。古来間者が持つ手法の一つ。武器を持つ戦いではなく、内部工作という部類の戦いに紐付けされる手法。水面下の戦い。前哨戦だ。
盤石な体制の王家から、その一角である聖女を切り崩す。
ココ・ミドルトンにそんなイデオロギーがあったとは思えないので、単なる色恋ごとなのだろうが………。
この事件によって、アクランド王国の王子中、王太子殿下、第二王子の妃が聖女ではなくなった。第三王子の婚約者は第五聖女だが、第五聖女は療養中だし。
事実上、王子妃の聖女が全て陥落したと言えなくもない。
もちろん第五聖女の容態が回復すれば表に出て来られるが……。
第二聖女である私は王宮に嫁ぐことはもうないだろう。
小さな色恋沙汰を切っ掛けにした事件が、意外に中枢まで響いていることに一瞬ヒヤリとした。
私も第五聖女も元第一聖女も自分で考え、その状況の中で最善を選んでいるつもりだ。
――でも
踊らされている?
誰に?
そんなことはないとは思うのだが……。
全てが偶然と答えるには、少し嫌な感じがする。
「シリル様?」
「なに? ロレッタ」
「次の婚約式の予定は内々に決まっておいでですか?」
「……………」
シリル様は沈黙された。
沈黙は――
滞りなく決まっていると言う訳ではない?
「王家も色々あるのでしょうね?」
「…………まあ、王家だしね」
年頃の魔術師の数にも限りがあることだし。
「まさか、王太子殿下の妃には聖女を狙っているということはないですよね?」
「………さあ? どうだろう。当事者と云えども婚姻は家同士の問題。ロレッタもルーシュもそうでしょ?」
「え? ルーシュ様?」
「僕だけではなく、ルーシュにも婚約者はいない。知っていた?」
知っていた? というよりも考えたこともなかった。
そういわれてみれば、エース家の侍女なのに御主人様の婚約者に会っていません。
私はルーシュ様をそっと見る。
緋色の髪に緋色の瞳。
すらっと背が高く、整った顔立ち。
六大侯爵家エース家の総領息子。
何故?
何故婚約者がいない??
令嬢が放ってはおかないだろうに。
そして有力貴族達も。
シリル様、ルーシュ様、そして自分、離れにいるメンバーを順繰りに見る。
私達って、結婚適齢期なのに仕事に邁進し過ぎて適齢期を逃し気味の三人???
アレ?
「この離れは独身者の巣窟なのですね?」
「え?」
「え?」
「だって、王太子殿下、六大侯爵家令息、第二聖女。全員伴侶どころか婚約者すらいませんよ?」
「え?」
「え?」
全員、結婚予定がありません。
貴族ですから。
現時点で婚約者がいないということは。
向こう一年は結婚もなさそうという。
貴族の結婚は時間が掛かりますからね。








