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第7話 魔術師の晩餐3






 放電にあたふたしていたしていた私達に、屋敷の主であるルーシュ様の大音声が響いた。


 それはそうです。

 もっともです。

 もっともなのですが………。



「ルーシュ様、あのルーシュ様の気持ちは痛いほどお察しします。ですが、ですがなのですが………」


 私も慌てていて、口が上手く回らないというか………。


「シリル様の体内に、一秒にも満たない、瞬きするよりも尚短い刹那の間、電撃が流れたわけで、もちろん直撃ではないですよ? 直撃は本ですから。でも何万ボルトかちょっと分からないですけど、熱傷が。つまりは深部に火傷を起こしている訳です。なので治療をしなければ………」


 私はシリル様の袖を少しだけ捲って外傷を確認する。

 リヒテンベルク図形。

 これは柊のような、稲妻のような痕なのだけど。


 やっぱり出来てる。

 相当流れた?


 組織損傷を確認する為、光の魔法陣を起動する。

 聖魔法の光を当てて組織透過を起こすのだ。

 人体は雷を通しやすい。

 通しもするし、通さない時もあるというか。

 半導というかなんというか。



 私は光の糸で傷付いた組織を縫合するように、光魔法を展開する。

 実はこの魔術。まだまだまだ実験中どころか、理論構築段階なのだが、ソフィリアの街でこれでもかというほど光魔法で糸を紡ぐ練習をしたので、聖魔法に応用できないかずっと考えていたのだ。光なら実際の糸よりも細く絞れるし、視認不可でも行けるところが利点だ。



 シリル様の腕に展開した魔法陣は、彼の電撃傷を負った傷を丁寧に繋げていく。

 そうリヒテンベルクの図形をなぞるように。

 電撃の通り道。



 ふと治しながら、彼の体にはこの図形がどれ程刻まれたのだろう? と思い至る。

 彼は生まれた時から雷の魔導師で、何度も何度もそう万を超える程紡いで来たのだ。彼の体は――



 私は袖しか捲ってないのだが、制服の下に隠された彼の素肌が気になりだした。もしもまだ痕があるのなら、治して差し上げたい。でも――傷は時間が経てば経つほど治りにくい。王妃陛下がついているのだから、完全に治癒しているはずなのだが、それはあくまで状況的な予測であって、この目で確かめた訳ではないというか………。



 私は今し方負った熱傷を治しながら、シリル様の制服に隠された部分を想像する。



「………………あの、これは一つの提案なのですが」

「?」


 シリル様はきょとんと首を傾ける。



「どうでしょうか? 治療に当たって上半身だけでも制服をお脱ぎになるのは?」

「え?」


 シリル様は瞳を瞬いている。


「あの? 脱ぐのはどうですか?」

「どうですか? って」

「いえ、ですからこうですね」


 私は手を伸ばしてシリル様の制服のスナップ部分に手を掛ける。

 自分も着ているから構造は熟知している。


「脱ぎませんか?」

「……………」

「私が一層のこと脱がしましょうか?」

「…………」

「脱ぎましょう。そうしましょう」



 既に聖魔法の治癒展開で、熱傷が治りかけている手で、シリル様は私の手を掴んだ。



「ロレッタ。僕は王太子だからね、服を脱ぐ時は寝室でお願いしたい」

「………寝室?」

「そう寝室」

「治療室の間違いでは?」

「…………間違いではない。寝室で合っている」

「治療室ですよね?」

「ここはエース家の離れで治療室はないじゃないか?」

「そうですね」

「そうだとも」

「では、ルーシュ様にお願いして客室を一つ治療室に」

「いや、それには及ばない。僕の推し活ルームで大丈夫だ」

「推し活ルーム???」

「そう推し活ルーム」

「推し活ルームとは?」

「推し活ルームとは、それは推しを推すための証のようなもの」

「???」

 

 私は知らない言葉に戸惑う。


「ルーシュ様、そのシリル様の推し活ルームという、私が用意した時分とはまったく異なった部屋と化していそうな場所で、彼に服を脱いで頂いて良いでしょうか」



 ルーシュ様は私に向かって極上の笑みを向けた。



「駄目に決まっているだろ」

「え?」

「駄目だ」

「駄目?」

「そう。ロレッタがシリルの推し活ルームなるものに入って、シリルの服を脱がせるのは駄目」

「えっと」



 家主の許可が下りませんでした。



「ロレッタ、気にしないで。僕は王太子だから、エース家令息の意見は却下できる」



 いや……。

 ここエース家なのですけども?

 却下は出来ないと思うのですが。



「既に治癒の聖魔法は完了しているように見えるが」

「はい。今し方負った傷は完治いたしました。今の治癒術なのですが、光魔法を習ったことによって応用が出来たのです。聖女は光の聖魔法だけではなく、光の魔術も学んだ方が治癒術に幅が出来ますね。素晴らしいです」

「それは素晴らしいな? 是非聖女科に提案したいな」

「はい」


 そう元気よく返事をしてから思う。

 これ以上聖女科の単位を増やしてはいけない。

 でも聖女としてのスキルを上げるためには絶対必要。


 妃教育の方をコンパクトにしてくれないかな?

 そもそも私の婚約破棄を機にこの『王子は聖女を娶る』という決まり自体に物申したい。

 聖女と妃は量的に兼学不可だ。

 聖女に集中するべきではないだろうか?

 聖女は聖女にしか出来ないが、妃は他の貴族でも出来る。


 でも正妃は必ず魔導師だから、結局は何かしらの兼学にはなるのだが……。



「私、その件と合わせて、聖女を妃候補から外してくれるよう提案してみましょうか?」



 私がその提案を口にすると、ルーシュ様もシリル様も一瞬で顔から表情がなくなってしまった。




 アレ?

 

 





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― 新着の感想 ―
[一言] 今回に限ってはロレッタさん迷子じゃない正論です。兼業きつい。
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