第5話 魔術師の晩餐
食卓に………
何故か私まで………。
侍女の私まで食卓に付いて、スープを飲んでいる。
何度も辞退したのですが………。
魔法省官吏としてのミーティングも兼ねていると言われ……。
どうにもこうにも断れなかったが……違和感っ。
なぜ私がエース侯爵家の子息とこの国の第一王子殿下と同じ食卓で食事をしているのでしょう? 給仕がしたい。今直ぐ立ってお仕着せに着替えて御主人様と客人の給仕がしたい。ここは私の職場なのに……。食卓に付いていることが違和感違和感違和感で額に汗が滲みそう。
「………あの……私、場違いじゃありませんか?」
私が怖ず怖ずと聞くとシリル様は「まったく」と言って首を横に振って否定し、ルーシュ様は「全然」と言ったきり無表情という。
どうしよう?
違和感凄いけど、今日は諦めて開き直るべきなのだろうか?
「ロレッタはセイヤーズ侯爵家の令嬢だし、魔法省官吏だし、なんの問題もないと思うけど」
シリル様がそう言うと、ルーシュ様が首肯する。
いや……。
そもそも準官吏ですし、しかもそれってなし崩し的な状況で有耶無耶な感じでなんとなくそうなったような流れで。
割と養女の件もなんとなーくなったような……。
「なりますか?」「なります」なとどいう意思確認すらなかった。
魔法省の準官吏というのも、最初は変装から始まったような………。
流れ……。
流れ以外の何ものでもない気がしてきた。
本来は貴族の食事なので、給仕が付くのだが、人払いをしたかったという事情で、既にメインや飲み物デザートまで食卓に上がっている。
離れだから意外とラフと許してくれるのかな?
お茶だけは私が給仕をしようと心に決める。
「………あの、付かぬ事をお伺いしますが、魔導師として生まれ、魔力を失うということはどういうことなのでしょうか? 例えばですね? 建国を成した七賢者の一人である初代国王陛下の妻である初代王妃陛下。最後に放った大魔法は禁術なのではないかと思うのですが………」
あの建国語りでの一番有名なシーン。
盟約。
盟約とは――
口約束に非ず。
アクランド王国を支える柱は六本。
このうち、一番太い柱であるエース侯爵家。
この柱は抜けないように出来ている。
そうなると――
内心で色々思考を巡らしていると、カランという高い音を立てて床に何かが落ちた音が響く。カトラリー? シリル様の?
給仕がいなかったので、私が拾いリフレッシュを掛ける。
そのままお渡しするのもどうかと思い、そのカトラリーは一端下げ、ワゴンから新しいものを用意しシリル様の食卓に並べた。
「シリル様? 大丈夫ですか」
彼は青い顔をして、下を向いている。
心なしか食卓の空気が凍り付いていた。
どうしよう?
不適切な言動だった?
無神経だった?
ちょっとミリアリア様のことが気になって聞いてしまったのだ。
禁術といわれる大魔法。
召還や空間転移も大魔法ではあるのだが、闇属性の魔導師が紡ぐ以上は禁術でもなんでもない。ただ大きな魔法という括りになるだけだ。
けれど、他属性の――
ここから先は考えてはいけないと、父に思考ストップ指令を受けている。
つまり禁術云々の話では無く、その後の魔導師がどうなるか知りたいのだ。
初代王妃陛下は多分だけど、命を代償にしている。
だって若くして亡くなっているし、その後の伝記的なものに登場しない。
大聖女が病気や怪我で亡くなるか?
これは既に聖女の中では常にある問いなのだが……。
亡くなる時は亡くなる。
けれど――
一般人よりは亡くなり難い。
それもまた一つの事実の側面。
聖魔導師の頂点であるし、もちろん自分にも光の聖魔法は執行出来る。
ただし――
即死というものの存在。
瞬間死。
死を理解する前の死。
死んだことを知らない死。
大きな事故であり、かつその事故を認識出来ていない場合。
これはもうどうしようもない。
魔法を放つ暇も無い。
そしてもう一つ。
死ぬだろうと理解はしていて、痛みもある状況。
しかし瀕死過ぎて魔術が放てないという。
魔力を錬成し、魔法陣を発現させ起動まで持って行けない。
そういう場合もある。
最後に――
自分の力が及ばない症状。
手も足も出ないというやつだ。
これも当然存在する。
例えば知らない毒。
聖女等級不正事件の時の裁判。
あの時放たれた黒い毒。
神官長を助けることが出来なかったし、私自身死にかけた。
聖女でも『死ぬ』の証明のようなもの。
でも――
結果的に私は辛くも生き延びた訳だから、非聖女よりは死ににくいだろうとも思う。
もう一度。
王立図書館貯蔵の『建国語り』を読んでみようか?
そう思った時、シリル様のボソリと呟かれた声が聞こえた。
 








