表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

264/434

【264話】人質の価値。



現代アシュリ・エルズバーグ視点





 目の前にあの憎い女の子供がいる。

 アシュリが時空干渉している時に、座標を切った女。

 パーシヴァル期の第一聖女にしてアクランド王国王妃。

 権力も、金も、栄誉も、魔力も、全てを手にした女。

 残忍で鋭利で人を人とも思わぬ女。

 傷病を治す神の奇跡と歌われた聖女が、そんな女だとは思わなかった。

 自分の為に人が死ぬとこも、苦しむことも気にしない女。



「さすが、あの性悪女の息子。口が良く回るね? 確かに王妃は世渡り上手で要領が良くて権力を味方にし、大変器用。君にそっくり。そっくりついでにまさかまた大聖女に惚れたの? もう懲り懲りじゃないの? どんなに思っても君に大聖女は振り向かない。いつまでも五百年経っても片思い。建国時に痛い目に合ってるよね? 無理矢理自分のものにして大失敗。忘れちゃったの? あの痛み。大聖女の掛けた楔は風化した? ここにいる第二聖女の前で洗いざらいぶちまけてやろうか?」


 王太子は薄く笑う。


「ぶちまけてくれて結構だよ? どうぞどうぞ。皆、知っている有名な話だから。ここにいるルーシュはもちろん、水の賢者のユリシーズ・シトリー、風の賢者に土の賢者。隠すまでもない。高言してくれて結構。母が無慈悲で情けのない人だということもある意味王宮では有名。子供を助ける為なら手段を選ばない、手も心も真っ黒で罪だらけ。王妃なんてそんなものでは?」

「お前も真っ黒だろ」

「王太子が真っ白で務まる訳ないだろ?」

「愛しの第二聖女が聞いているぞ」

「愛しの第二聖女に聞かれても問題ない。さっき言ったろ? 忘れちゃった?」

「やっぱり第二聖女がアキレス腱か」

「彼女はアキレス腱になる程、弱くない」

「あの女の期待を裏切るのが怖いくせに」

「裏切る予定がないので、まったく怖くない」

「リエトを殺すぞ」

「それで王太子が怯むとでも?」

「内心で怯んでいる筈だ。愛しい女の弟だ。必ず助けたい相手に違いない」


 王太子は口の端を上げて笑う。


「愛しい女の血縁者は殺せまい」

「………」

「アシュリ・エルズバーグには子供がいる。アリスター・エルズバーグという十になる子供がね? よくエルズバーグ家から隠しきったと褒めてやりたいところだが、それは違う。お前は何もしていない。隠しきったのは産みの母親だろう。そうなんだろ? それに便宜を図ったのが、セイヤーズ大侯爵。何故大侯爵自ら便宜を図るのか? それは関係を明らかにすれば当たり前の事、彼には水の賢者の血統継承を持った弟がいる。しかし二人兄弟ではない。ミリアリア・セイヤーズ。大侯爵の実の妹。水の魔導師。彼女、実は王立学園休学中行方不明になっている。ローランド・セイヤーズとユリシーズ・シトリーの妹。あまり知られていないが、君はシトリ-伯爵を介して会っている。そしてアリスターの母親でもある。そうなんだろ? 何も調べていないとでも思ったか? お前にとってリエトは義理の甥。そしてミリアリアにとっては血の繋がった甥っ子だ。殺せるわけがない。殺したらお前はミリアリアに顔向け出来ない。殺せない人質など人質とは呼ばない」

「ミリアリアのことまでよく調べているな?」

「当たり前だ。戦いの常道だ」

「……水の一族は結束が固くてね。兄弟同士が馬鹿が付くほど仲がいい。ミリアリアは歳の離れた兄二人が大好きだった。聞く話によるとね、『優しい』以外ない兄だったらしいよ? どこまでも優しい。何をしても優しい。そんな兄」


 アシュリはそんな兄弟仲が羨ましくもあり眩しくもある。

 自分のような現実と。彼らの現実。

 まるでまったく違う世界のことみたいに思える。


「人質は一人じゃないんだよ? 分かっているのか王太子? ソフィリアの街に放った蚕のことを」

「僕は雷の賢者だよ? 馬鹿にしているの? 君のことなど全てお見通し。嘗て僕が王で、君は部下。大侯爵は配下。僕の手足のようなもの。君の立てた作戦は山ほど見てきた。君は人質を取る。取りまくる。人質を取って相手が言うことを利けば御の字だけど、人質を見捨てる輩も沢山いたじゃないか? 君、その時どうしていたか憶えているよね? 一度でも殺したことってあった? ないよ。一度もだ。闇の賢者は人質を殺さない。有名な話だよ? ここにいるルーシュも、そしてシトリ-伯爵も誰でも知っている有名な話」

「有名か」

「仲間内ではね」

「人は変わる」

「本質は変わらない」

「お前は飽きもせず大聖女を好きになる」

「そこは永遠に変わらない」

「しつこいぞ」

「しつこくて結構。悟りだよ」

「年寄りか?」

「実際、長く生きている」

「まあ、そうだが」



 アシュリは口の中で少し笑った。

 人質は殺したことはないが、人格強制したことは何度もある。

 ものは言いようだな?






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミック】『紅の魔術師に全てを注ぎます。好き。@COMIC 第1巻 ~聖女の力を軽く見積もられ婚約破棄されました。後悔しても知りません~』
2025年10月1日発売! 予約受付中!
描き下ろしマンガ付きシーモア限定版もあります!

TOブックスオンラインストアは画像をクリックまたはこちらから
紅好き。コミック1宣伝用表紙
第3巻 発売中!!
TOブックスオンラインストアは画像をクリックまたはこちらから
紅好き。2宣伝用表紙
第2巻 発売中!!
TOブックスオンラインストアは画像をクリックまたはこちらから
紅好き。2宣伝用表紙
第1巻 発売中!! TOブックスオンラインストアは画像をクリックまたはこちらから
紅好き。1宣伝用表紙
― 新着の感想 ―
[一言] 殺さなくてもひどいなー どこかから自分にもしっぺ返し来るんだろうな。 アリスターこうなる前に保護されて良かったね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ