【260話】視界を覆う者達。
突然、魔力の大質量を感知した瞬間、私は戦慄した。
シリル様もルーシュ様もそして私も魔力など放ってはいないのだ。
ということはここにいない第三者の魔力。
それはどう考えても好意的なものじゃない。
そう。
これは攻撃。
攻撃魔法。
そう思った瞬間、私の視界は全て真珠色に変わったのだ。
大質量のゲートアウト。
と考えれば自ずと答えに辿りつける。
これは闇魔術の大魔法。
ソフィリアの街のこの宿の一室に穴を開けられたのだ。
もちろん物理的な穴ではなく、空間に。
闇魔導師の手によって。
誰? と聞かれれば、答えは一つしかない。アシュリ・エルズバーグ。
大侯爵家序列五位のエルズバーグ家の次期当主。
空間の魔術師。
「!?」
私は光シールドの魔法展開に入る。
入るが当然遅れた。
顔も手も足も真珠色の蚕に覆われる。
これは印を背負った蚕。
蚕の体に魔法陣が刻まれている。
体に触れたが最後、魔法陣が起動して人格が矯正されてしまう。
蚕に覆われて息が出来ない。
シリル様は直前に私に何を伝えたかったのか?
闇の魔導師の最大の魔術。
空間転移魔術。
彼は何と言った?
人体に転移門を開くことは出来ない。
それは座標がないから。
じゃあ、何処に開くのが有用か? と。
人体の次に近い場所。
体の表面だったの?
私はどこに光シールドを顕現させればいい?
体の表面?
それとも私達三人を囲むような空間で?
体の表面ピタリとにシールド展開しては、今と変わらず息が出来ない。
でも私達の体に蚕が付着すれば、刻まれた魔法陣が展開してしまう。
どうすれば――
早く決断しなければ、迷っている間に窒息死だ。
何もせずに死んでしまう。
兎に角魔法を放たなくては。
私は水魔法の魔法陣を起動する。
自身を覆っている蚕を水圧で吹っ飛ばすのだ。
それと同時展開で、私達三人を囲う光魔法のシールドを場に展開する。
体の表面ではなく、私達がある程度動ける空間。
何故なら、事前に何度も練習したのはその大きさの空間だった。
シールド内に蚕は勿論入るが、それは水で仕留めるしかない。
私はそこまで思考と行動を同時に展開させ、自身の顔を覆う蚕を水魔法で剥がしたところでガクンと膝を着いて、呼吸を何度も継ぐ。苦しい。よくよく考えたら、自身の顔を覆う蚕くらい手で引き離せばよかった気もするが、戦闘訓練をまったく受けてない所為か、もしくは魔導師の性なのか、それとも蚕に触れてはいけない気がしたからか、全部なのかもしれないが、魔法で回避する方法しか頭に浮かばなかった。足下には水溜が広がる。シールド内にいた、打ち漏らした蚕は蒼い炎に灯られて燃えていた。
真珠色の蚕が翅に蒼い炎を纏って命と共に燃え尽き始めている。
声を上げることも、のたうち回ることもなく。
何処かしこで真珠色の蚕が燃えていた。
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