【026】『真実の愛(第二王子サイド)』
笑い続けるバーランドに侍女が王太子の来訪を告げる。一体何の用だというのだろう? 王太子になど会いたくなかった。そうは言っても断るすべもないが。
「やあ、バーランド気分はどうだい?」
入ってきた王太子は、バーランドに気軽に声を掛けながらソファーに座る。何か束になる程書類を持っていた。
「陛下との謁見は後日に控えている。そこで正式な沙汰が言い渡されるだろうけど、まあ、それまでは事務処理のようなものだから。そこの書類に印を押すように」
上から確認すると、第二聖女との正式な婚約破棄証やらココ・ミドルトンとの婚約証、更に土地の売却証写しなどが重ねられている。もちろん婚約関係の書類は直ぐに印を押した。
「兄上、この土地の売却証の写しは?」
「ああ、それね。バーランドが陛下から下賜される予定だった土地を整理しているんだよ?」
「? なぜそのような事を」
「何故って、王家と伯爵家の婚姻を王家側から一方的に破棄した訳だからね。高額の慰謝料が発生する。バーランドが陛下に断りなしに行った事だから、陛下ではなくバーランドが相続予定でいたものから支払われることになる」
「? 伯爵家などに払う必要があるのですか?」
「それはあるだろう。君が振ったのは陛下の臣下の令嬢なのだから」
「では私財以外から出す事は出来ませんか?」
「え? まさか君の真実の愛を貫く為の慰謝料を税金から出す気かい? それは出来ない相談だろう。それ以外に衣服や宝飾品、家具等も売り払われる予定だ」
「え? では私の身の回りの物は?」
「残らないんじゃない?」
「それでは生活出来ません」
「いや、大丈夫。真実の愛があれば何でも越えられるよ。なんせ真実の愛は無敵だからね。ああ、その二枚以外は印はいらないよ。確認の為に持って来たもので、君のものじゃないし」
そう言って、王太子は二枚の書類だけを持って、長居はせずに帰って行った。一体何だというのだ。残ったのは全てただの写しだ。いくらで売却済み。という全て売却された証明書を写したもの。そして慰謝料の総額は夥しい額になっていた。庶民では一生掛けても稼げない額だ。バーランドは納得が出来なかった。何故自分が資産整理のような事をやらねばならないのか。王立学園を卒業したら、成人した王子として陛下から受け継ぐ予定でいたものだ。それらが全て現金に換えられた。しかも伯爵宛てだ。文句を言おうにもまだ正式に下賜されたものではなかったので、厳密な所有者は陛下であり王家だ。
婚約破棄。真実の愛。親が決めた女性では無く、自分で選んだ女性を伴侶にすることは、自主性のある素晴らしい事だ。愛のない結婚に幸せなどない。愛する女性と結婚する、愛していない女と婚約破棄する。シンプルで正しい事。
まあ良い。資産はまた別のものを受け継げば良いのだし。このことは陛下との謁見の際に訴えさせてもらおう。バーランドは自分なりに納得しながらも、書類の束を見ながら、失った金銭の大きさを目の当たりにして、背中に冷たいものを感じた。








