【259話】世界の色彩。
三人で大人の目を盗んで、ただただ泣き続ける。三人に出来ることといえば泣くことしかなかった。彼らは繋いだ先の体温を感じながら、毎晩毎晩涙を流し続けた。
シリル様の言葉を聞きながら、私は暗い場所で、泣き続ける三人の子供を想像していた。疲れている体に鞭を打って夜中に起き出す。そして同じ年頃の友達と手を繋ぎながらひらすらに泣く。その時間が特別。友達の体温を感じる時間が特別。自分の為に泣ける時間が特別。一人じゃない時間が特別なのだろう。
それは特別だけれど、夜中に三人の子供が肩を寄せ合って泣く光景は、異様であり、子供が辿り着く果てのような世界だと思った。
「その内、彼らの一人が他の二人の為に泣きながら祈るようになった。『どうか、手が痛くなくなりますように。どうか疲れが取れますように』他の二人の手を握りながら一心に祈った。時には傷に手を当てながら、時には地面に絵を描きながら。文字はまだ書けなかったから、絵を描いたんだ。体が治るイメージを絵にしたんだ。光が降り注ぐイメージとか、温かい水に包まれたイメージとか。毎晩毎晩沢山描き続けた……」
え?
まさか失われた古代魔法の秘話?
文字が分からないから、計算を習っていなかったから、ひたすらに絵を描き続けた。
それが大聖女様の魔法獲得の話に繋がる?
癒やしのイメージで水を思い浮かべていたから、水魔法も習得したのだろうか?
初代の大聖女様は光魔術がメインなのだが、水の魔術も紡げる多重魔法使い。
「……そんなことが続いたある晩、三人の内の一人が大きな怪我をしたんだ。大人の振り上げた鍬が彼の足に振り下ろされた。でもやっぱり他の二人は泣くことしか出来ない。泣いて泣いて一晩中看病して、その日から、彼らの内の一人の女の子は、怪我ををした少年の為にただただ祈ることしかしなくなった。洗濯も御飯の支度も全て投げ出した。大人の言うことを聞かなくなった。ただただ怪我をした少年の為だけに一心に祈り続けたんだ。何も食べず、彼の傷口に手を当てて――」
そこで一端切ると、シリル様は私を見て、小さく微笑んだ。
「その後、どうなったか分かる」
「分かります」
多分、光魔法が発現したんだ。
そして少年の傷は癒やされ、三人で村を出た。
そこから建国記に繋がるのかもしれない。
「女の子は命を懸けて祈った。その後にね、彼女の賢明な所は魔術の習得のしかたを二人に教えたんだ。『あなた達二人には魔力がある。それを具現化してここを出よう。野垂れ死んでもいいじゃないか、三人で死ぬなら怖くない』そう言って、村の外に向かった」
建国記の始まりは、既に全員が魔導師というところから始まる。魔術を体得した話は残っていない。シリル様のお話はとても貴重なものだと思えた。王家の伝承レベルが凄すぎる。
「彼らは三人で一つだった。三は二では割れない。三自体が素数なのだから」
「え? 素数?」
「そう。素数。三は三。二と一には分けない」
「?」
「ロレッタ」
「はい?」
「理解した?」
「理解?」
三が素数というですね?
承知してますよ。
三は素数で間違いありません!
そう思った瞬間、私の肌が粟立った。
魔力の大質量!?
感知した瞬間、私の視界は真珠色に覆われた。
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ここからは領地再生編③ラストまで
続きになります。








