【255話】精密度。
「梯子は適当には作れない。安全基準的なものがある。桟さんの部分があるだろ、足を乗せる所。あそこは正確に等間隔に付けなければいけないというルールがある。手探りや体の感覚で上下するからな、目分量だと危険な訳だ。だいたい三十センチくらいだと言われている。そして幅も三十センチは欲しいな」
ルーシュ様がいう安全基準、これはきっちり守って作りたい。そうでなくとも垂直タラップな上に、下部が固定されていないのだ。使うには細心の注意が必要だ。
――別に、人間が使う……ということを想定しているわけではないのだが、スライムだとしても梯子は梯子だし、この世は何が起こるか分からない。想定内の想定外というか……。兎に角梯子の精度に拘って失うものはないわけで、ないのなら拘った方がベストな選択だろう。
三十センチの紐を二本作り、等間隔に計りながら結びつけていけばよいだろうか? いや、結ぶというのは梯子が五十メートルと想定した場合、上下六十センチを開けて、踏み桟というかステップをつける場合、四千九百四十センチの光の綱に三十センチ毎にステップをつけると、単純に計算しただけでも結び目は百六十四個の倍、三百二十八カ所。一人百九回結ぶことになる。本結びではなく、体重が掛かれば掛かる程固くしまるテグス結びでいきたい。すると三十秒で一カ所を結ぶとして、一時間くらいかな。全然いける数字ではあるのかな?
一時間、私達は口も聞かずに集中してテグス結び? しかもその中の一人は次期アクランド国王である王太子殿下………。もう一人は次期魔法省長官であるエース侯爵令息。私はセイヤーズ侯爵令嬢で一応聖女。
私はいいとしても、やんごとなき身分のお二人を一時間も紐結びに付き合わせてよいのだろうか? 一人で集中してやれば三時間だ。三倍になるが出来ない数字ではない。
「……結ぶのは私が一人でやりましょうか?」
「………いや、それには及ばない。作業系は三人でやった方が早く、苦痛も時間も三分の一。それに三人で話しながらやった方が楽しい。一人だとちょっと頭がショートしそうな程単純作業になる」
ルーシュ様は一人だと頭がショートしそうになるのですね。
分かります。確かにこう頭が真っ白になっていくというか、作業に集中すると、何かシンプルな世界構造になるというか。あれはあれで癖になるというか……。世界は私と結び目に尽きるというか……。
私は長い光の糸が必要ということで、謎の古代魔法を紡ごうと思います。
シリル様が考えてくれた、絵と古代語の魔法陣。綺麗な陣なのだが、使っている私が微妙に全てを把握していないというのが、一抹の不安がある魔法陣。どういう原理であの絵で光の糸が出てくるのだろう? 現代魔法よりかなり抽象的というか、曖昧な部分がある魔法だ。
制服のポケットからシリル様に描いて頂いた魔法陣を取り出す。これは現代魔法と違って暗記が出来ないな……。と思う。どころかこの魔法陣の紙をなくしたら、もう一回はないような? 早急にこの絵を模写出来るようになる必要があるかもしれない。なんだろう? 現代魔法は数学の世界だか、古代魔法は芸術の世界とかじゃないよね? いや、なにかこの陣を数値化したものが現代魔法なのだろうか? 絵を数値化とは何? 変換式が浮かばない。つまり絵と同じ命令を式でしてるのが現代魔法なの? ここは雫ですみたいな命令を式でしている? 同じ魔法を顕現させる魔法陣を横に並べて研究すれば分かるかもしれないが、それは完全に魔法研究の分野だ。魔法研究部も魔法省に入っている……というか割合六課もそっち寄りだったような? だからルーシュ様はあんなに陣へ精通している?
私は古代魔法の魔法陣を見ながら、止めどなく出て来る思考に終止符が打てず、ただただ考え続けていたのだが、しかし思考は後回しにしてでも、梯子の完成を目指さなくては。
大変に名残惜しいが、私は切り替えて光の糸を顕現する魔法陣に魔力を流してゆく。やがて紙に描かれていた魔法陣が起動に入り、空中に具現化する。そして何度も明滅を繰り返しながら、構成していた魔法陣の外側の部分から光の糸に変わってゆくのだ。
いつ見ても特別で綺麗だな?
そんな風にその魔法陣を見つめていた。
レビューをいただきました。ありがとうございます。いつもブクマ、ポイント、誤字脱字報告、感想等で応援してくれる皆様のお陰で執筆していくことが出来ます。感謝です。感想はネタバレなどに続いてしまうものに関しましては、レスポンス出来ないこともありますが、全て楽しく拝読しております。








