【254話】秘密道具その一。
黒猫の耳飾り。
クロマルがいつも耳元にいるみたい………。
手元にも耳元にもあの小さな、爪の先くらいに分裂した時のサイズ感のクロマル。私が黒い血に汚染されたとき、助けてくれたクロマルは耳元からごぞごぞと出て来たんだよね? そう思うと耳元がくすぐったい。
「ありがとうございます。シリル様」
シリル様は笑って頷く。
「推しが喜ぶところを見るのはとても嬉しい。僕にもその嬉しい気持ちが伝わるから」
「…………」
「ロレッタが嬉しいと思えば、僕も嬉しい。だから君にプレゼントを贈ることは僕の幸せでもある。良いこと尽くめだよ?」
「…………」
「君に沢山の髪色を変えるリングをもらったでしょ?」
「はい」
「とても嬉しかったんだよ? 赤色の配分だけでも三個のリングを使い分けることが出来る。一番薄いものはミモザのような色になり、中間はオレンジ色。そして一番強い色は朱色に変わる。自分の髪なのに自由自在で楽しい。雰囲気も変わり気分転換にもなる。あれは良い物だった。一個一個のリングに魔法陣を定着させているのだから、高価なものだし、市場に出ていない貴重なもの。僕に合わせて作ってくれたもの。ありがとう。そのお礼も兼ねてだから」
髪への色入れリングは、一晩でさささっと作ったものです。
一度作り上げた魔法式なので、色の分量だけ変えればいい。あとは量産する感じで作ることが出来る。十個作ったことで、魔法式を忘れなくなったので、とても身になった………魔導師として。その上、気に入って頂けたのなら、とても嬉しい。
馬車の中では全部着けで黒髪にしてましたものね……。
アレは真っ黒でしたね。
黒の君に近かったです。
どこからどう見ても土の魔導師なのに、瞳が金という………。
クロマルを意識したっていってましたね。
クロマル……。
猫ならまだしも、スライム。
スライムスライムスライム。
「あの、シリル様。どっちのベッドに寝るとかはおいておいて、光の袋の次は五十メートルの紐梯子をつくりませんか? それならマジックバッグの底に届くかもしれませんし、クロマルも跳ねずに登れるのではないでしょうか?」
「…………」
シリル様はきょとんとして目を瞬いている。
「え? はし????」
「『ご』です。梯子」
「え? 五十メートル??」
「そうです。五十メートル」
大分長い。途中で絡まる?
折りたたんで折りたたんで作っていくイメージだろうか……。
「……梯子か」
梯子に反応を示したのはルーシュ様だった。
「梯子は適当には作れない。安全基準的なものがある。桟の部分があるだろ、足を乗せる所。あそこは正確に等間隔に付けなければいけないというルールがある。手探りや体の感覚で上下するからな、目分量だと危険な訳だ。だいたい三十センチくらいだと言われている。そして幅も三十センチは欲しいな」
「詳しいですね。ルーシュ様」
「雑学程度というか六課長としての最低限の知識。転落に関わるからな」
「そうですね。とても大切なところですね。網より余程細心の注意を払って作らないといけませんね」
「そうなるな。食べ物を入れる光の網と、命を預ける梯子は違う」
「………成る程」
私は神妙に頷くと、勢いをつけてテーブルにポーションを並べた。
「皆様、回復からリフレッシュ2までよりどりみどりですよ? お好きなものを飲んで下さい」
気持ちが上がるようにグラデーションになるように並べてみた。
「リフレッシュ2はマストですからね? 私が開発した体内の老廃物などを綺麗にするポーションです。老廃物だけではないのが、リフレッシュ2の優れたところなのです。なんと細胞のコピーミスなども綺麗に洗い流してくれるという優れもので。ただ、もちろん睡眠中に無意識下で体が行っているものを再現しただけなので、それ自体が薬なわけではありません。、睡眠の代用という主旨のもので、それ以上でも以下でもありません」
「…………」
誰も手を付けないので、私が見本を見せるように飲んだ。
「仕上げましょう。今晩」
「「…………」」
言葉を失っているルーシュ様とシリル様に、私はにっこり微笑んで聖魔法を展開した。リフレッシュです。体内ではなく体外を綺麗にするリフレッシュ1。さっぱりしますし、リラックス効果もあるという……。
私、三徹目ですね! 明け方には眠れると良いのですが。








