【251話】体積は?
私は入り口の小さなポーチから深淵を覗き込んでいた。
遠くの方で魔法陣が明滅したから、クロマルが転移魔法の魔法陣を定着させたのだろう。
どれくらい距離があっただろうか? 直径が分かれば半径が分かる。半径が分かれば、ポーチの中を凡そ球だと仮定した場合の体積が出る。確実ではなく目安ではあるが、魔法陣が起動した場所を底だと考え、入り口から底まで何メートルあるのだろう?
私は首を捻る。
「………単位万じゃないですかね?」
私がぼそりと漏らすと、ルーシュ様とシリル様が微妙な感じで頷く。
「………広場っぽいですものね? ホールというか」
「……そうだな」
ルーシュ様が相づちを打つ。
「ここからあそこまで約五十メートルと考えれば、体積で約六万くらいか? ざっくりで考えると」
「それくらいですよね?」
「…………」
六万立方メートルのマジックバッグ????
冗談?
冗談で大丈夫?
現実?
クロマルはどこまで開発しちゃったの?
私達三人はやや遠い目になる。
あまり物事を具体的に考えない方がよいかもしれない。
そうすると途方もないというか………。
何が起きているのが認知が不可能になる。
「………とにかく、まあ広いということですね」
そうだそう。
つまりは広いのだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
シトリー伯爵家のお庭を縦に六個繋げたくらいだろうか?
いや、平面と立体を比べようもないのだが………。
シトリー伯爵領の領主館も庭は無駄に広い。半分は畑ですが。
「………こんな大きなマジックバッグ存在するのですね……」
私の疑問に、ルーシュ様とシリル様は無言で頷く。
存在はしていますが、ここだけの局所的な話になりそうです。
これはクロマルが魔物だということに起因するのだろうと思う。
スライムですし、やはり人間の魔力とは違う。
桁違いとうやつです。
「ここに物を整理して入れる?」
ルーシュ様が首を捻る。
先程、シリル様が入れたパンは底の方に落下していった。
普通に重力があるわけで。
入れると全てが底に落ちる。すると手では明らかに届かない。
どうやって出し入れするのだろう?
理想をいえば、手の届く範囲に棚があると便利だが。
マジックバッグの中に棚???
これも上手くイメージが湧かない。
そもそもポーチの入り口に棚なんかあったら邪魔だ。
本来の大きさをまるで使いこなしていない仕様になる。
それは流石に……憚れるだろうと。
「入り口部分に麻袋でも吊しておけば?」
ルーシュ様にそう言われて唖然とした。
それはエレガントとは言えないのでは!?
雪玉草の可愛いポーチに麻袋とは?
大分残念な仕様になってしまいます。
こんなに可愛いポーチなのに。
私達、使いこなせません?
宝の持ち腐れとはこのことじゃないかと、ほんのり頭に浮かんだ。








