【249話】ヘッドハンティング
書籍化作業が一段落しました!
投稿を再開いたします。
5/10に『紅好き。』2巻が発売になります。
予約開始です!
活動報告にて、書き下ろし内容について詳しく書きました。
2巻表紙も一緒に貼ってあります。
ロレッタ、ルーシュ、シリルの三人組です!
私は必要な薬草を購入して店主に挨拶をすると店を出る。
屋台で五人分のお昼を購入して、宿に戻った。
ちなみに昼に開いている屋台は広場ではなく店先。
あまり選べなかったが、無発酵のパンに、トマトとひよこ豆を煮たものが挟んであるものを購入した。これは最後にチーズを振りかけて溶かしてあるところが贅沢と言えば贅沢。
五人分というのは、ルーシュ様シリル様アリスターにクロマルに私の分だ。
しかし――
このチーズとトマトのトロトロ仕様のピタパンのようなものを、超高級な雪玉草のポーチに入れるのは勇気が……。
勇気が大量にいりますという話。
一番広い部屋でピタパンを並べながら、お茶の準備をしていると、保存食購入と馬の手配などを終えたルーシュ様が帰宅する。
「お帰りなさいませ」
私は駆け寄って荷物を受け取ろうとして断られた。
うん。断られたよ? 侍女仕様だったのに。
しかもルーシュ様の顔を見るとなんだか恥ずかしい。こう鼻の奥に熱い血が迫り上がってきた感覚を思い出す。ルーシュ様が不意打ちであんなことを言うから。「俺のベッドで寝る?」とか「俺のベッドに入る?」とか「寝かしつけてやる」とか。そんな言葉を言われた日には宝物ですよ? 侍女の心の棚の。素敵過ぎ。格好良すぎ。鼻血でる。
私はぽーっとなりながらルーシュ様を見ていると、シリル様に覗き込まれた。
「ロレッタが骨抜きになってる…………」
「…………」
「……僕のロレッタが……」
「?」
私は首を捻る。
王太子様のロレッタになったことはありません。
元第二王子殿下のロレッタにはうっかりなりかけましたが。
危なかった……。
「僕のロレッタ……が……」
シリル様が再度呟いて傾ぐ。
「……あの……シリル様の婚約者になったことはありませんよ?」
「それを言うなら、次期エース侯爵当主の婚約者もないよ?」
「もちろんです。ルーシュ様はいわば崇め奉る存在ですから。御主人様ですから。婚約者なんて恐れ多いことです」
「………恐れ多いんだ」
「…………恐れ多いです」
「王太子と次期エース侯爵当主との婚姻はどちらが恐れ多いの?」
「?」
「身分は王太子の方が上だよ?」
「………確かに上ですね」
「うん。そもそも次期国王妃だからね」
「……そうですね。頂点ですね」
私はうーんと唸りながら考える。
「……あまり考えたことがありません……。想像出来ないというか……」
「………そこを無理に想像するとどうなるの?」
「………侍女は侍女なので程遠いと言いますか」
「侍女はよく主人の手が付くよ? ココ・ミドルトンだってメイドの子だ」
「………ココ・ミドルトン……」
「そう。あの国外追放になった……」
「……精神的外傷です」
「……………うん」
「確かに。手近というか手頃というか、そういう部分はあるのでしょう」
「でしょ?」
「近くにいますからね」
「そうそう」
「………ルーシュが君に手を出したらどうするの?」
「………侍女は端から御主人様のものです」
私がハキハキ答えると、シリル様が頭を抱えて小さな悲鳴を上げる。
「ロレッタが……、ロレッタが………。自らルーシュのものだとか言い出した」
「え? 言い方??」
「ロレッタ、給金を弾むから王太子付きの侍女にならないかい?」「なりませんっ」
「即答。しかも食い気味。どういうこと。職歴も王太子侍女の方が評価が高いし、給金も高い。転職チャンスだよ? その上、僕は使用人に手は出さない。非常に安全」
「……安全」
「…………安全だよ?」
「……安全は素敵な言葉です。……ですが……私は、エース家がよいのです。ここが一番なのです。第二王子様のいた王宮は気が休まりません」
「第二王子は既に除籍済み。もう王宮にはいない。なので問題ない」
「なにか魑魅魍魎が跋扈してそうではないですか?」
「……魑魅魍魎など微塵もいない。広くて清潔。快適な空間だ」
「………王宮に私の居場所はありません」
「居場所は僕が力尽くで作って上げる」
「………そんな怖いことしないで下さい」
「全然怖くないよ。慣れたものだよ? その道のプロでもある」
「………えー……」
王太子殿下という圧倒的優位な立場で王と王妃の第一子でも、力尽くで居場所を作るのが王宮なのですか!? ハード。権謀術数の蔓延り方が半端じゃない。私が生息できる場所じゃない。
「……シリル様、そろそろお茶にしませんか?」
私はニッコリとシリル様に笑いかける。
そしてルーシュ様にも。
シリル様ととんでもなく道が逸れた想像話をしたお陰で、緊張の糸が解け、ルーシュ様の侍女の私が帰ってきたかも? もう赤面もしないでいられるかな? 大丈夫かな?
王宮に上がるなんて怖すぎる。エース家の侍女として頑張ろう。
ルーシュ様の側にずっとずっといたいから。
お茶を飲みながらホッとする。
お茶っていいな?
とても良い香りがするし、体も温まる。
まだ春だから、そんなに暑いという程ではない。
むしろ朝晩は冷える。
お茶はオレンジの皮とハーブ。
紅茶と違い利尿作用がないので、旅には向いてる。
酸味とハーブ? の爽やかさが合うよね?
オレンジの皮は薬草にもなる優れもの。
何故か当たり前のように三人で昼の食卓に付く。
これって侍女仕様で合ってる?








