【248話】聖女のF級ポーション。
私は薬草店の店主が運んで来てくれたお水を、お礼を言って受け取る。
喉が渇いていたからとてもありがたい。
水の魔導師でも、こういう気遣いは嬉しい。
「美味しいお水をありがとうございます。そしてベッドも貸していただき、とても助かりました。ごめんなさいね、突然鼻血を出して倒れてしまって。お店の営業中なのに」
気の良さそうな店主は首を横に振る。
「いいんですよ。気にしないで下さい。こんな商売ですからね、具合が悪いお客様はいっぱい来店しますから。休めるように奥にベッドを一つ用意してあるんです。突然倒れたのはあなた様が初めてではありません。慣れているので気にしないで下さい」
ホントに!?
慣れてる??
ロレッタはごそごそと制服のポケットから治癒のポーションを一本取り出す。
まだ卒業したばかりなので、F級ポーションなのですが……。
F級ポーションて、こういう時、ちょっと出しにくいというか……。
F級って!
この国の今期最高位?? 聖女(一応)がF級って。
もうなにか色々おかしいです! と言いたくなる等級ではあるが、しょうがない。
これも世界に広がる歴としたルール。
「……あの、お礼としてはとても自信を持って贈れるものではないのですが、こちら私が個人的に作った治癒のポーションです。F級ポーションですが、どうぞ」
私は遠慮ぎみに怖ず怖ずと差し出す。
「?? 第二聖女様がお作りになったポーションがF級!?」
あ、やっぱり。
そこ驚くよね?
私もちょっとどうかと思う。
F級どころか中身はC級くらいの自信はあるのだが……。
私が持っている資格(聖女科を卒業するともれなく付いてくる)がF級という。
早急に級位を上げた方がいいと思う。
商会で売り出す前には絶対に。
ついでに暗黙の了解でしたが、第二聖女だってバレた。
うん。バレてたんだけども。
でも断言はしていないよ?
「……私、聖女じゃなくてですね、光魔法が得意な魔法省の平官吏です」
「……………」
今更感凄い。
空気も乾いた感じ。
「…………ええ、そういうことで大丈夫ですよ?」
街の薬草店の店主がフォローしてくれた。
なんか、すみません。
気を遣って頂いて。
ほんとうに、もうね。
苦しい変装で……。
「こちらの貴重なポーションを頂いても良いのですか?」
店主はポーションを見ながら、「これは事実上のA級ポーションじゃないだろうか?」と目を凝らしながら小声で言っている。
「そんな、まさか、行ってもC級でしょう?」
「…………」
店主は胸ポケットからルーペを出し、まじまじとポーションを調べ始める。
いや、ちょっと、待って。
そんな本格的に検査しなくても。
「……凄い。色の明度、魔法展開した時の薬草燃焼率の高さ。不純物が少ない。Sの中とも言える………」
「……そんな訳ないじゃないですか、店主さん」
「いや、ポーションは嘘をつきませんから。見たまんまですから。誤魔化しとか効きませんから」
「……………」
……でも。
Sはないなー………。
Sというのは第一聖女級だもの。
私は一応今の所第二聖女だし。
一応元第一聖女のお姉様が離脱されたから、今期の最上位にはなったけども。
Sということはないでしょう。
だって、そんな気がしない。
店主さんは私のポーションを目の前に翳しながら、少し手が震え出す。
「……こんな高価なものは頂けません。これは庶民が手に出来るレベルのポーションではありません。一生の稼ぎを注ぎ込むレベルのものです。手に出来るのは侯爵以上。そういう種類のポーションです。私は初めて目の当たりにしました」
……私がエース家の離れで作ったものです。
「気にしないで下さい。私は新人の魔法省官吏です。その官吏が試しに作ったものです。気軽に受け取って下さい」
私はそう言って、店主に受け取るよう促した。
「……でも」
彼の瞳を少し瞬く。
「毎年、応援してくれた御嬢様に。そしてそんな御嬢様を優しく見守って育て上げた優しいお父様に」
私は回復ポーションも一本追加で渡す。
王国の民は国そのもの。
ポーション一本で元気になれるなら。
その方がいい。
毎年毎年、最前列で応援してくれた親子。
今、こうして巡り会えるなんて、強い縁を感じる。
巡り合わせの繋がり。
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