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【247話】真珠色の空。




 気を失った私は何故かハンドベルイベントのことばかりを考えていたのだが、寒空に雪が舞い降りた気がして空を見上げると、そこには真珠色の空が広がっていた。


「?」


 私は目を凝らす。

 雪じゃない。

 ふわふわと優雅に飛ぶ。

 あれは蚕――



 そこまで考えてブワリと全身から冷や汗が噴き出して目が覚めた。

 さっきまで街の薬草店にいたはずなのだが、店のフロアにはいなかった。

 何故ならしっかりベッドに寝かされていたから。


 そして私の枕元ではシリル様と店主様がまだ聖女イベントの話をしていた。


 ホントに!?

 まだ?

 嘘でしょ?

 今の今までずっとハンドベルイベントの話をしていたとか?


 長っ。

 凄い長さ。

 私が気を失っている間、ずっと?



 私は首を傾げて二人を見る。

 夢中で話をしていた二人はなかなか気が付かない。

 

「……あの」

 

 私が小さな声を上げると、二人はやっと気が付いてニコニコ笑う。

 店主は水を汲みに行き、シリル様は「大丈夫?」と聞いてくれた。


「ルーシュの毒牙にかかったんでしょ?」

「…………」


 そう言われると、「俺と寝る?」と誘われた言葉をリアルに思い出してしまい、顔が熱くなる。


 それを目の当たりにしたシリル様は首を左右に振って溜息を吐く。


「ルーシュのことは僕が叱っておいたから安心して。彼は必要なものの買い出しに行っているよ? 食べ物とか馬の調達とか。だから僕らはここで薬草だけ買って、宿に帰ろう」

「………」


 三人で行く予定だった買い出しをルーシュ様一人で調達することになってしまった。

 申し訳なさ過ぎる。


「ロレッタが盛大に鼻血を噴くほどのことをルーシュはしでかしたんだよね?」

「…………」


 いや、盛大な鼻血って。

 そう言えば、鼻に沢山のハンカチが当ててある。

 これってシリル様の普段使いのハンカチかな………。


「ちなみに、僕とルーシュと影と店主のハンカチだよ?」

「…………」


 それはほぼ居合わせた全員なのでは。

 居たたまれない。


「…………突然のことで、ご迷惑を……」

「大して迷惑じゃない。とても有意義な時間だった」

「………有意義……ですか?」

「そう。なんせ僕はイベントに参加していたはいいが、最後列だったからね。君の姿はまったく見えなかった。なので最前列にいたという店主に事細かに説明というか実況というか、そういうものをしてもらった。目を瞑るとハンドベルを奏でる君がハッキリと………」


 そう言って、シリル様は実際に目を瞑って想像しているようだった。

 本人を目の前にして想像されても……どう反応すれば……。


「……いい絵が描けそうだ」

「………まさか売る気ではないですよね」

「…………」


 私の言葉にシリル様が押し黙る。


「……芸術を独り占めするのは……」

「芸術ではなくてですね、個人特定している姿絵の話です」

「……聖女は一般人に非ず」

「…………」


 それは先程、ルーシュ様からも聞いたような……。


「そうは言ってもですね、本人が遠慮したい場合だってあります」

「僕の姿絵も個人的には遠慮して欲しい」

「……いえ、そこは一国の王子、そして次期国王の王太子殿下ですから」

「この国の最高位聖女、癒やしの女神だからね」


 私の言葉にシリル様が同じ調子で返してくる。

 ………えー………。

 王太子殿下と聖女を同じに扱われても。

 違いますよね?

 私、しがない伯爵令嬢ですよ? しかも元第二王子殿下に婚約破棄された玼物というか。


「姿絵は聖女になった者の定め。ここは潔く諦めるのが賢明……」


 いやいやいや、何言ってるの。

 描いている本人が諦めれば、発売されないでしょうよ? 

 だって過去の絵だよ? なんで過去? 旬でもないし。


「……あのですね、シリル様」

「なんだいロレッタ」


 そんなニコニコされても駄目ですよ?


「ここはパーシヴァル期第一聖女様であり国王妃陛下でもあるお母様の姿絵とか描かれてはどうでしょうか」

「何を言う。それこそ時代錯誤。既に結婚している前期聖女ではないか? その上、母親。それではモチベーションが上がらないにも程がある」

「………現国王妃なのですから、王国的に見れば旬なのでは………」

「いや、しかし自分の母親を描くなど誰得なのだ」

「国民得でしょうか?」

「ロレッタ………」

「なんでしょうか?」

「画家のモチベーションがだだ下がりの案はちょっと」

「……………」


 えー。


「……では第三聖女、第四聖女などどうでしょうか?」

「それは弟ではないか。ありえない」

「…………」


 有り得ないんですね。


「いいかい、ロレッタ。僕が描くのは第二聖女。それは決定事項。譲れない部分だ。他の聖女は他の者に任せる。それでなんの問題もない」

「………えー……」

「そもそも僕の店は第二聖女専門店」

「………僕の店?」

「……………」

「先程、オーナーと懇意とか言ってませんでした?」

「ああ、懇意だとも」

「御本人でしたか?」

「ああ、そうとも言う」

「……………」


開き直りましたね、シリル様。

 あなたなんですね?

 第二聖女専門店を開いてらっしゃられるオーナーは。

 王太子殿下直営のお店なんですね?

 私はじと目でシリル様を見る。


「………しかたがないのだ、ロレッタ。これも尊いものを共有するという宿命のようなもの。素敵な絵が描けた。皆で愛でたいという願望からは逃れられない。どうだこの絵を見てくれ、魅力を余すところなく注ぎ込んである。賞賛したまえ。という心境になるのが世の常。ならばその真理に沿うのが人生というもの。人生後悔などしたくないからね。素敵なものは絵に。そして魅力の分かる者と共有。その時間は素晴らしいという」

「………」


 何をもっともらしいことをおっしゃっているのですか、シリル様。


「僕は趣味に生きたい」


 は?

 一国の王太子殿下が何を言っていらっしゃる?

 本気ですか?

 聞かなかったことにした方がいいですか?


「趣味は生きる活力のようなもの」

「………へー……」


 私は生暖かい返事を返した。








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― 新着の感想 ―
[一言] そうだけれども!>趣味 あなたはそれでは困ります。
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