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【242話】残った者達。




 私達三人は動き出した馬車を見送る。

 馬車が見えなくなるまで。

いつまでも、いつまでも。


 本来は、そんなに危険な道中ではないのだが。

 それにしても、従者の方と子供一人という組み合わせが気になる。

 身近に魔導師がいない状態が手薄に感じてしまうのは、自身が魔導師だという性だろうか? 思えば魔導師がいない集団など五万とあるのだが……。


 貴族と縁があると他者に知られている子は誘拐対象になりやすい。

 私達が魔導師だということは制服を羽織っている以上、街中にバレている。

 ということは貴族の可能性が高いこともバレていることになる。

 エース家だとはバレていないが……。

 エース侯爵家が保護している子に手を出すなど、貴族社会を少しでも理解していれば、ありえない事なのだが、理解していない人間は僅かに存在する。


 はっきり言って、王家と同じくらい有名なのが六大侯爵家だ。アクランド王国に籍を置く者なら誰でも知っている。子供から大人まで。幼子からお年寄りまでだ。そもそも寝物語で母親や父親が子供に聞かせるくらい有名な話。

 その家に子が誕生すると、国に届け出をして戸籍を作る。その時に行政は建国物語の絵を一枚プレゼントしている。小さな手のひらサイズの絵なのだが、貧しい家庭に絵があるのはほんの少しだけ贅沢。


 子供のために多大な税金を払って絵を贈るのは、もちろんその子の誕生を国が祝福しているという意味合いもあるのだが、やはりそこは愛国心を育てたいという本音もあるはずだ。


 君が生まれた国は完璧ではないけれど、好きになって欲しい。そして将来はこの国の一員になって生きて行って欲しいというメッセージというかそういうもの。人は人のルーツに誇りを持ったとき、それが自分自身への存在価値に繋がる。特に理由もない、なんとなく存在を肯定出来る自信のようなもの。


 私の父は私の婚約破棄式ではっきり言っていた。

 国境線を守り続けているセイヤーズに誇りを持っていると。

 シトリー伯爵としての自覚はかなり薄いが、あれはもう生まれ育ったセイヤーズ侯爵家の次男としての価値観なのだろう。


 セイヤーズ領を守る。

 伯父様の側で。

 それが自分のルーツ。

 七大賢者の一翼。

 水の大侯爵家。

………のおまけの飛び地? シトリー伯爵領。


 そんなこんなで、王家と六大侯爵家は国民なら誰でも知っている存在。

 特にエース侯爵家は建国王の右腕で親友。建国物語でも王の次に目立つ。皆知っている。

 紋章はフェンリルに燃えない七つの実。七つというのはもちろん七賢者から来ている。


 そんな大物の馬車はよっぽどではない限り、手を出す人などいないと思うのだが。

 だが、馬車に紋章はついていない。

 お忍び用。

 やっぱり紋章は王城に行くときなど、身分を明らかにする公式訪問の時などが最大の出番。



私はミシェルとの別れで涙目になっていたが、頭の中では安全に関する項目を熟考していた。感情と現実は別物展開なのかしら? 心の内は悲しいという気持ちが広がっているのに、目の前に広がる現実は心配という思考でいっぱい。


 私は落ち着く為に小さく息を吐く。

 ポーションも沢山持たせた。

 魔法陣も刺繍した。

 食べ物も飲み物を持たせた。

 ……おやつを持たせるのを忘れた。

 おやつ。

 旅はおやつを食べるのが楽しいのに……。

 ああ。

 忘れ物。



 ちょっと落ち込んでいると、シリル様が私の顔を覗き込んだ。


「……本当はね、ロレッタも馬車に無理矢理詰めて帰してしまおうかと思ったんだよ」

「………え?」

「シトリー領はどう見ても安全には見えないし、ミシェルに付いて、さっさと王都に帰すかと………」

「………」

「……でもさ、よく考えたら護衛もなしでこの国の最上位聖女がふらふらしてるって、逆に浚われるというか騒動に巻き込まれるというか……あるでしょ? そういうの」


 ありますかね? そんなこと?


「そう思ったら、僕とルーシュと一緒に行動した方がいいかなって」

「………えー……」

「それにシトリー伯爵が動くだろうから、ロレッタに危険は少ないかな? と」

「………シリル様はどうしてそんなに父のことを信用しているのですか? 父は人の信頼とかに応えるタイプではありませんよ? 生粋の次男気質ですから。適当というか不真面目というか、領政に才能がないというか………」

「……確かに領政の才能はあるようには見えないけどね。僕が信用しているのはシトリー伯爵の領政の才能ではなく、魔導師としての類い希なる才能。七大賢者の血を色濃く受け継いだ血統継承保持者。氷の魔術は努力で越えていける壁ではない。あれほどずば抜けた才能を持っているセイヤーズ侯爵ですら氷の魔術は紡げない。シトリー伯爵のみが持ち得ている感覚なのだろう」


 ……確かに。努力量ではセイヤーズ侯爵、つまり伯父様の方がいかにも多そうな気配がする。もちろん伯父様も水の魔導師として一線を画している。私は水魔法で伯父様の技量に近づける気がしない。越える日はもちろん来ない。私の水魔法はどうしてこんなに地味……というか生活密着型? 華とかないよね。バケツに水は溜められるけど。便利だと自負はあるのだが、便利というのもあれかな……。



「日持ちする食べ物とか、薬草とか、買い込めるだけ買い込んで宿に戻るぞ」



 ルーシュ様にそう言われて、ああそういえば雪玉草のポーチの収納量を調べるのだったなと我に返る。馬車が行ってしまった方をもう一度確認してから私達は歩き出した。









チョコの日のSS記念を忘れて、本編の続きを書いていました。

甘い日逃した………。


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