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【241話】不安は何で補いますか?






 従者の方が御者台に上り、次は弟三であるミシェルの番なのだが、私は彼に最後の別れを告げる。別に今生の別れとかそういうものではないのだが、むしろ会ってからまだ二日目というレベルなのだが、ずっと手を繋いでいたので、とても寂しい。光の糸は既に解き従者の方と繋がっている。結構長めの糸で繋いだから、旅の間に困るということはない筈だが……。


 私は昨日切ったばかりのミシェルの髪を撫でた。漆黒に近い髪。瞳も瞳孔が見えないほどの黒だ。一瞬見た感じでは土の魔導師と見間違えるくらい。綺麗でしっとりとした特別な色。


 リフレッシュをして、髪を整えて、服を着替えたら見違える程可愛くなった。痩せすぎた体を覗けば、裕福な子供に見えなくもない。


 彼の顔を覗き込みながら、不安だろうな? そんな風に思う。

 昨日の今日で三人の魔導師に捕まり、意志の確認もせずに保護し、更にはずっと面倒を見ていた魔導師と別れるのだ。


 それは――


 不安以外の何ものでもない。

 まだ十歳くらいで。

 誰も知らない。

 住んでた街も離れ、保護した人間も離れ、彼は誰に頼るのだろう?


 私は何度も何度も彼の髪を撫でた。


「私達はシトリー領でのお仕事を終えたら直ぐに王都に帰りますね。だから安心して下さい。その後でエース領に行くかも知れませんが、それは君と弟二も連れて行きます。そこで一緒に海を見ましょう。日差しを反射してきらきら光るあの海です。私も見た事がありません。一緒に見ましょう」


 ミシェルは小さく頷いた。

 頷いた時に、瞳が僅かに揺れたのが分かった。


「ミシェル、君とは血は繋がっていませんが、私があなたを弟として育てると決めました。だから安心してね。離れるのは少しの間だけ。その間は弟二と一緒にお菓子を作ったり、花壇のお花を育てたり、文字を教わったりしながら過ごして下さい。この前も言ったけど、弟二のアリスターは孤児院出身なので、君みたいな子と話すのは慣れているし、子供同士で文字を教えるのも慣れているから。だから――」


 安心してね。

 そう言ったら、ミシェルは私の目をじっと見たあと、僅かに下を向く。

 寂しいと言う事に慣れていない。

 自分の意志を言うことに慣れていない。

 我が儘は言ったことがない。

 彼はそんな子。


 ミシェルはマントのフードをすっぽりと被り、顔を鞄で隠して、声を出さずに震えながら泣き始めた。


 私は地面に膝をつき、彼を包み込むように抱いた。

 折れてしまいそうな細い体を。

 震える背中に腕を回して。



 罪のないところにも不幸はやってくる。

 罪と不幸が比例していたら、この世は平等なのに。


 ――でも


 世界は不平等だから。

 何も罪を犯していない子供のところにも不幸はやってくる。


 助けて――


 掠れた声で、そう呟くのだ。



 私は聖女だから、そんな声が聞こえたら、助けてあげたい。

 教会は聖女をトップとする聖教会。

 孤児院にも何度も出入りしている。

 そもそもが、大変貧乏だが私は貴族だ。

 何か出来ることがあるかもしれない。

 シトリー領には孤児院がないから、作っても良いかもしれない。

 公的なお金が導入されるように、申請出来ないだろうか?



 そんな風に考えていたら、やがて腕の中にいた彼は、まだ泣き止んでいなかったが、馬車によじ登り、御者台ではなく馬車の中に入って座席に顔を隠すようにうつ伏せになって丸まる。


「元気で……。気を付けてね。大丈夫だからね……」


 私がそう言うと、彼は俯きながら頷いた。

 私もうっかり涙声。

 子供が精一杯無理をしている姿って。

 もう、なんか、私の感情もめいいっぱいになる。



 ルーシュ様が中を確認する為に一端馬車に乗ってから、ミシェルの背中をポンポンと叩いて、いくつか馬車中の確認事項を説明すると、彼の頭を二、三度撫でてから馬車を下りて、扉をそっと閉める。そのまま御者台にいる従者に合図を送った。



 ゆっくり動き出した馬車を私は手を振って見送った。

 馬車が見えなくなるまで。

 その場で立って、三人で――






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[一言] 三、無事に二とクロマルに会えますように!
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