【024】『魔道具回路(聖女の片手間)』
「ところで、聖女科の如雨露は永久如雨露なのだな?」
「はい。第三聖女も第四聖女も喜んで使ってました!」
「へー…」
王子達は喜んで使っていたんだな。ふーん。留年組の王子は弟王子だからか、王太子が優秀なせいか、なんでそんなにのんき者になったんだ?
「君が作ったと?」
「はい。魔道具の実技授業中に作りました。材料費は掛かっておりません。学校が用意してくれた魔石と如雨露で作りました」
「……まあ、備品だからな」
如雨露はまだしも、魔石は高い。魔石が高い上に魔導師が回路を組み込むから値段が更に上がる。魔道具は庶民には手が出ない価格だ。しかし、魔道具が安定して作れるとなると、王太子の言っていた商会の立ち上げに見通しが立ってくる。ロマンス小説と氷付けの花とF級ポーションそして永久に水が出る如雨露。農家は喉から手が出る程欲しい商品だな。でも農夫の収入ではおいそれと買えない。つまりはその領地を治める貴族が自領の農産物の安定供給の為に買うという事になるだろう。農地が広がっていて、日照りが多い地区そして領主の領地管理がしっかりしている所がターゲットだな。貴族相手なら百単位で売れるかもしれない。そもそも領民が治めた税で買うのだからなんの問題もない。
しかし、授業で作りました。って。
なんでそんな天才的行為が学校で噂になっていないんだ? 俺など知りもしなかったぞ? 魔石と如雨露を教師が用意したのなら、その教師だってそれが異常なことだと気づいている筈じゃないか? なのに何事もないように、聖女科のただの備品として収まっている。彼女の規格外の魔力コントロールは闇から闇か? いや意外に無意識なのだろうか? 魔道具の授業を受け持っているのは誰だ? 魔法科と違うのだろうか?
「教師は誰がしている?」
「神官です」
「魔道具が作れる神官か?」
「いえ、教会にお勤めしている一般神官です」
「魔道具師ではない?」
「魔道具師ではありません」
「何を教わっているのだ?」
「皆で教科書を読んでいます」
「………」
それは一人でも出来るわ!
「どうやって、魔導回路の作成を覚えたんだ」
「教科書を見て」
「それだけ?」
「それだけです」
天才か?!
「魔道具師の先生が書いた素晴らしい教科書です。もし流しの聖女になっていたらお目にかかってみたかったと思っておりました」
まだ流しの聖女とやらが心の一部を占めてるんだな。終身雇用するか?
「ちなみに流しの聖女というのはどんなイメージなんだ?」
ロレッタはよくぞ聞いてくれましたというような体で話し出す。
「何か自分の力では抵抗できない強大な敵に理不尽な目に遭わされるんです。そしてそれはとても力のある敵なので、その国には居られなくなってしまいます。悲壮感漂う出で立ちで隣国に逃亡するのですが、そこも安全とは言い切れません。なので長いローブに身を包み、街から街へ彷徨うのですが、街々で怪我した子供を助けたり、魔道具を直したりして、細々と生計を立てるのです。そしてたまに昔を思い出して寂しそうな顔をして遠くを見つめるという感じです」
「随分具体的だな」
「はい。かなり具体的に想像していました。なんせ一国の王子に敵愾心を向けられたのですから。貧乏伯爵家など吹いて飛んでしまいます」
裏には侯爵家が付いている。しかも水の魔導師有する六大侯爵家だ。吹いても飛ばないだろう。むしろ、吹いて飛ぶのは第二王子だろうな。王太子が婚約破棄証を作成していたという事は、彼は恐らく第二王子を見捨てるのだろう。王太子は決して妾腹の王子は助けない。特にあの王子の母、元第七側妃。顕示欲が強く教養が足りないと聞いている。好都合くらいに思っているかもしれない。今は王太子だが、彼は行く行くは国王になる身なのだ。絶大な権力を有している。他の王子とは一線を画しているのだ。しかも王妃腹であり王の第一子。その上ーーあの閃く瞳の色。雷を顕現しているのだ。王族でもおいそれと遺伝しない雷の魔導師。そうそう逆らえる者などいない。第三王子も第四王子も顎で使われている。同腹の王子はある意味可愛がってはいるのだろうが。自分の母親である王妃陛下を苦しめた側妃の一人。害する機会があれば容赦しないだろうな。教会の前にそっちが先だろうし。
「流しの聖女の事は、忘れるように」
「え?」
「いや、そんな未来は来ないだろう」
「そうですか?」
「そうだろう」
「……でも、心の準備が」
「来ない未来に心の準備などしなくて良い」
「じゃあ、エース家で終身雇用……」
「それはおいおい考えておく」
「本当ですか?」
「……本当だ」
そこまで言うとロレッタ・シトリーは満面の笑みを浮かべた。
笑うと可愛いな? 終身雇用が嬉しいんだな……。伯爵令嬢なのに……。








