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【238話】思考の最前線

前話の『寝静まったその後で。』を投稿いたしました!

それに伴い、この話も少し直しております。

 


 私は夜明け前に刺繍を完成させた。

 ちょっと歪んでいてドキドキするのだが、起動……する……はず。

 手を翳した感じで、起動しそうな雰囲気を感じた。

 

 今まで、道中はルーシュ様とシリル様がいたわけで、私も含め魔導師が三人もいたから、対外的な大きな危険というものはなかったけど、従者の方と子供の弟三だけなので、開かれた街道でも一応護符くらいは持たせたい。


 光のシールドと治癒魔法にしたのは、体の何処かに怪我を負ったとき、待ったなしで発動させることが出来るから。ポーションはどうしてもタイムラグが発生する。そして気を失ったり、瀕死の重傷になった時に自分で摂取ができない。


 だから。

 念には念を入れて、治癒魔法の魔法陣を組んだ。

 一晩ではなく、二晩あれば、もう一、二個魔法陣を足せたかもしれない。

 ポーションは鞄に入れるが、鞄よりも服の方がより接触が断たれない。

 治癒魔法の魔法陣が自動発動する仕組みにしておけば、致命傷を受けても回復が間に合うはず。

 一回目の死を回避できる。

 

 二人の安全を守ってくれますように。

 ロレッタは魔法陣の光の糸に、額をつけて願う。

 妃教育の刺繍も案外役に立つではないか………。

 王家の双頭竜を刺繍した時間も無駄じゃなかったのかな。

 過去は全て未来に繋がるのかもしれない。


 まだ弟三と従者が寝ている間に、上着を元の場所に戻すと、少し、迷ったが従者の方に渡すお守りは、明日直接渡そうと思う。


 ラストはポーション作り。

 朝までに出来るだけ作り置く。

 いくらあっても無駄にはならない。

 一本でも多く。

 私は、皆が起きてくる頃までひたすらポーションを作り続けた。



◇◇



 朝食は昨日買ったフルーツサンドの屋台でパンをたっぷり買い込み、朝市でフレッシュクリームを購入する。少し迷ったが多めに買ったパンを恐る恐る雪玉草のポーチに入れた。

 真っ暗な空間が広がっているだけで、クロマルの姿は見えない。

 昨日シリル様が、おおよそのリットルを調べようと言っていたので、食後かもしくは弟三達を見送ってから、本格的に出し入れしてみるのかもしれない。



 ルーシュ様はテーブルに並べられたメニューをみて、昨日と全く同じだと素で驚いていた。

 あ、ここ驚く所ですね? 

 エース家では有り得ないかも?

 でもでもぜひぜひ、なかなかこられない公爵領だし、美味しいものは何度でも食べたいし。

 舌に焼き付けたいんです。

 そして、マネしたい。

再現したい。

 似たような味のものを作りたい。

 アリスターはそういうことに興味がありそうだな?

 なんと言ってもパティシエ志望だし。

 


 私は寮の朝食が毎日同じメニューだったので、あまり気にならないというか、むしろ嵌まるとずっと同じものを食べるタイプで、学食でも割と同じものを昼食に食べていた。


 弟三もゆっくりと、フルーツサンドを噛みしめている。

 今朝起きて直ぐ、ルーシュ様はエース家の従者の方にこれからのことを説明していた。

 馬車で弟三と王都に戻るように。朝食を取ったら直ぐに出るようにと言っていた。

 特に道中は何も無いと思うが、気を付けるようにと。


 あとは弟三の扱い。一応ルーシュ様とシリル様と私? で立ち上げる商会の使用人だが、具体的な仕事が始まるまではエース家の準使用人見習いで、離れの使用人部屋を使う事。アリスターと年が近いから、接触させるように等の細かい指示。


 弟三は静かに頷いていた。


「お姉ちゃんたちは?」

「私達三人は魔法省の仕事でシトリー領に行かなければならないのです。でも、もしかしたら危険なことがあるかもなので、従者の方と弟三は先に王都のタウンハウスに戻します。この紅髪のお兄ちゃんの王都用の家なのですよ? そこで副執事の方の指示に従う事になります。ルーシュ様が細かい経緯を書いた手紙を言付けると言っていましたので安心して下さいね」

「……光の紐は?」

「一応、エース家のタウンハウスに着くまで従者の方と結びます。エース家に着いたら取るように伝えて置きます。取る事が出来るのは魔術師で、魔法省長官のルーシュ様のお父様か、エース侯爵夫人か、ルーシュ様の弟君かというところですが、離れに住んでるエース家預かりの弟二に頼むのが一番無難ですので、その部分も従者の方に伝言を頼む予定でいます。弟二は繊細な魔術も打てる闇の魔導師です。きっと良い話し相手になると思いますよ? ……分かっていると思いますが、魔術契約がありますから逃げても逆に困った事態になります。自分の為にも逃げない方がいい。伝手のない王都で路頭に迷うだけだから」

「……うん」


 弟三は神妙に頷く。

 私は感触で逃げないだろうなと既に思っていたが、一応伝える。


「同じ歳の子がいますからね。きっと楽しいと思います」

「………弟多いね」

「そうなのですよ。王都にいる子が弟二のアリスター。君が三番目の弟ミシェル。そして今からシトリー領に迎えに行くのが弟一のリエトです。三人」 

「……妹はいないの?」

「残念ながら……妹は今の所いませんね……」

「……ふーん」

「……でも、あの紅髪のお兄ちゃんはいますよ? 君と同じくらいの妹が」

「名前は?」

「………名前……」

「マーガレット・エース。勝ち気なお転婆という感じか?」


 ルーシュ様が私達の会話に補足してくれる。


「ルーシュ様の妹は勝ち気なお転婆ですか?」

「そう聞いている」

「……弟三人衆に混ざれば、リーダー的な……」

「……………」

「……来年辺りから、同じ敷地で暮らすことになるのではないでしょうか? ただ、君は見習い期間が終わったらシトリー領でお仕事をする予定ですが」

「………蜂を捕まえるやつ?」

「そうです。正確には蜂を掻い潜って、蜂蜜を奪取する人です」

「…………恨まれそうだね」

「………確かに、蜂に大変恨まれそうですね」

「……………」

「刺されないように、防護服を光の網で作りましょうね」

「……………」


 弟一のリエトと弟二のアリスターは来年の春から王立学園魔法科に入学する。そしてたぶんルーシュ様の妹のマーガレット様も。弟三のミシェルだけ道を分かつ? ことになる。しかし、それも何か少し気がかりというか………。


 生まれが違うということで、用意される道が露骨に違う。

 彼は商会の使用人になるわけだから、商会の使用人として頭角を現すには、文字が読めて計算が出来なければならない。一年くらい王都の商業訓練校に通わせようか……。

 使用人が有能な方が商会は回しやすい。


 結局私達は魔法士な訳で、商業は畑違いなのだから、一人くらい商業のスペシャリストを育てたい。将来の為に。この辺りもおいおいルーシュ様に相談してみようか? あとは弟三の適性をみてみたい。商売が苦手な子に、無理にさせるというのも良い結果には繋がらないだろうから、一応本人の意思も確認しよう。


 自分の力で生活をしていけるようになるまで、そしてその生活が楽しいものであるように……。この辺りは孤児院と目指す所は同じかもしれない。


 シトリー領の特産品として蜂蜜を考えるならば、どうしてもハニーハンターの育成は必要になってくる。そして蜂の巣を単純に掻っ攫うのでは、幼虫が死んでしまうので、次世代に繋がるくらいに少し頂戴するというのが理想だ。


 蜂の生態が知りたいと再度思う。

 切実。

 自分で生態確認すると一年以上掛かってしまう。


 シトリー領。

 私の最近出来た夢? というか願望? というかはシトリー領を花の里にする(その実、蜂だらけ)事なのだが……。


 ――でも。


 今、あの何も無い領地で何が起きているのだろう?

 なぜ、アシュリ・エルズバーグという人は、シトリー領にいるのだろう。

 しかも父の留守中に。

 父の留守中に、シトリー領の領主館に踏み込んだ?

 弟を人質にして。

 人質をとった理由は、魔力制圧されない為。

 普通に考えて、シリル様? もしくはシトリー伯爵である父に何か要求があるのよね?

 有利な条件にしたいと言っていたわけだから。


 シトリー領に関わる要求?

 それが想像出来ない。

 産業も何もないのだ。

 富のないところに、要求はあるのだろうか?


 たとえばセイヤーズ領。

 富だらけだ。

 国内最大の塩湖ラクアシェル。

 その塩の権利。

 セイヤーズ領主が飲むわけないのだが、要求とは即ちそういう種類のものではないのだろうか?

 シトリー領に何があるの?

 十歳まで暮らしていた私だから分かる。

 あそこは何もない。

 ゴロゴロと石ばかりの平地。

 開墾をとうに諦めた荒れ地。


 そんなだから花が良いのでは? と考えたくらいだ。

 養分が少なそうな種類の花が良いよね。

 見た目も可愛らしいし。


「ルーシュ様、アシュリ・エルズバーグという人はシトリー領で何がしたいのですか?」


 私はストレートに聞いてみる。

 何も思い浮かばないから。


「それはアシュリにしか分からない。でも彼の性格を踏まえた上で、何通りか考えておく必要がある。想定内なら動きやすい」

「……シトリー領を手にいれたい?」


 私は、一番シンプルな大枠から考える。


「エルズバーグの大領地の次期当主だからな。領地や貴族位にはまったく興味はないだろうな……」


 それはそうですよね? うん。

 口に出すまでもなかった。

 エルズバーグの次期当主が飛び地のシトリー領を欲しがるとは思えない。

  

「シトリー領の特徴を挙げてみろ」


 ルーシュ様にそう言われて、私はシトリー領のことをじっくり考える。


「土地が痩せている。街道から逸れている。人が少ない。貧乏。産業がない。川があって橋を渡らなければならない」


 シトリー領が栄えないネックの川。

 更に誰もシトリー領を欲しいと思わない部分なのではないかな?

 輸送の最大の弱点。

 橋がなければ渡れない。

 

「では、そういう冴えない土地でしか出来ないことは何か? そこを考える」


 冴えない土地。

 冴えない土地だから出来ること?

 これは逆転の発想だ。

 つまり、アシュリ・エルズバーグという人の目的は、冴えている土地では出来ない?


 ???


 輸送路が少ないことをプラスと考える?

 そんな事ってあるだろうか?

 旅人や商人が少ない。

 外からの人の出入りがない。

 つまり疫病が流行りにくい。

 

 それは――

 

 プラスといえばプラス。

 街道から逸れているのだから。

 

 そんなことは今まで考えたこともなかった。

 


 しかし、冴えないって。

 ルーシュ様、シトリー家の娘の前で言い切るとか、ある意味凄い。

 確かに冴えませんけども。

 言い方?!





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