New Year SS『いつまでも君と――』
建国王の視点です!
降るような雪。
年が明ける日は必ず――
僕は翠の君のところで過ごす。
とても忙しくて。
今年は会えないかも知れないと思っても。
僕は必ずここへやって来るのだ。
翠の君は盟友。
僕ら七人はアクランド王国を建国した盟友だから。
僕と兄貴分の紅の魔術師。
そして幼馴染みの聖女の女の子。
賛同してくれた翠の君と黒の君。
水の魔導師と闇の魔導師。
僕ら七人の魔術師は、その理を越える力によって魔法大国を建国した。
魔術師はその数の少なさと、魔力によって為政者に利用させるとこが多かったから。
僕らは僕らの特性に添った居場所が必要だと思った。
たった数人の行き過ぎた人間の、極端な価値観による戦いなんてしたくなかったし、それにかり出されるのもごめんだ。僕らは僕らの意思で未来を決めたい。
耕した農地から農産物を搾取される生活も、震える程の理不尽も、絶える事の無い空腹も。何処まで続くのか分からなかったから。僕らは僕らの手で終わらせた。
その果てに――
僕は翠の君と森の中を歩く。
翠の君が欲したものは、悠久の平和。
侵害されることのない土地。
豊かな森。
精霊樹を守りたいと。
彼はそう言った。
アクランド王国北部は翠の君の領地。
その七割は森林が広がっていて、彼らの種族が住まう場所。
安寧が手に入るのなら、手を貸そうと言ってくれた。
彼は千年の時を生きるもの。
僕が吐く息が白くなる。
翠の君の領地の冬はそれは寒いものだった。
アクランドで最北なのはもちろんなのだが、山が近いせいか積雪が多い。
僕らは長い丈の外套に身を包み、分厚いグローブとブーツを身につけ、頭にはふわふわの帽子を被っている。
その雪深い森を翠の君を先頭にして歩いて行く。
護衛はいない。
僕と彼だけ。
雪道は歩くのにとても時間がかかる。
翠の君が雪を掻き分け、僕は彼の作った道を進む。
どれくらい歩いただろう?
二時間?
それとも三時間。
もしも紅の魔術師が側にいてくれたなら、体を温める火を熾してくれただろう。彼は僕の頼れる兄貴分で、生まれた時から僕を守ってくれた大切な親友。
もしも僕の側に白の魔術師がいてくれたなら、優しい光で体温を上げてくれたかもしれない。彼女は子供の頃からの幼友達で、怪我をした時その聖魔法でいつも癒やしてくれた、特別な子。
ある日僕は――
二人を同時に失った。
一人は僕を残して逝ってしまい、紅の魔術師は僕を一生許さない。
親友と、
好きな子を、
同時に失ってしまった。
僕は灰色の空を見上げる。
後から後から雪が降る。
森が小さく開けて、僕らは目的地に着く。
外套に積もった雪を落とし、僕らは目の前に現れた洞窟に入る。
奥の奥。
この場所は夏でも氷穴になっていて、氷も雪も溶けることはない。
最奥に安置された棺に跪く。
白い聖女服に身を包んだ僕の愛しい人。
その冷たい手に僕の手を重ねる。
「安心してね、僕は君が悲しむことはしない。君の大好きだった紅の魔術師とは仲良くやっているから。――だから」
心配しないで――。
そう言って、彼女の冷たい手に僕の頬を当てる。
胸の奥がズキリと軋む。
君がまだ温かかった頃。
君の頬が薄紅色だった頃。
僕は――
君が生きていてくれるだけで、
幸せだった。
足下から寒気が迫り上がってきて、
僕を震わせる。
君が好きだった。
ただそれだけだった。
君を――
冷たい手を握りながら、
後悔という名のものに押しつぶされそうになる。
殺したかったわけじゃない――
目の奥が熱くなり、俯いた時、翠の君の手が僕の肩に掛かった。
「陛下がお亡くなりになった時、王妃陛下もお隣に埋葬いたしましょう。私が責任を持って、枯れぬ花を手向けます」
耳元でエルフの長の声が静かに響く。
アクランド王国最北の地は、雪で覆われる季節。
木々は凍り、視界一面が白くなる。
冷たい結晶が、後から後から止むこともなく降り積もる。
☆今年もよろしく☆








