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Christmas SS『クロマル&アリスター』


☆クリスマス記念SSです☆

素敵な夜をお過ごし下さい!






 孤児院の近くにはミモザの森が広がっていて、そこは僕とクロマルの出会った場所で、特別な場所で、沢山の秘密を持った場所だった。春には黄色いミモザの花が咲き誇り、一面があの小さな花に覆われる。僕は八年前、その下にそっと捨てられていたそうだ。小さなハシバミの籠に入れられていて、綺麗な綿の布に包まれていたらしい。


 春だったから寒くなかったのかも知れないし、比較的早く見つけてもらったのかもしれない。僕はそういう風にこの場所と出会った。一番最初に出会ったのは、しな垂れるミモザの花と黒色の猫。どちらもふわふわで愛らしい存在。



 僕は猫とミモザの森が好きだったから、孤児院での仕事が終わって自由時間になると、飽きもぜずこの森にやってくる。猫という生き物は春に沢山仔猫を産む、そして秋に少しだけ仔猫を産む。秋に生まれる仔は春の仔に比べれば少ないのだけど、でも春に生まれる仔猫よりも大人になれる仔が少ない。


 僕の足下には、小さな仔猫たちがまとわりついている。黒い仔が二匹と黒白が一匹。今はもう冬の入り口。僕は仔猫達が冬を越せるように小さな小屋を手作りしているところだった。雨風が凌げて、そして目立たず風景に同化するように。頑丈で奥行が深いものがいい。最後に僕の毛布を入れて完成させる。一番厳重に作る必要があるのは屋根。雨が降って水が入ってしまったら台無しなので、一番難しい場所。地面から浮いた木の上も考えたが、木登りが上手な猫も別に木の上では子育てしない。落ちないように地面で産む。


 どうやって作ってよいか分からなかったから、図書館で建築の本を読みあさった。取り敢えずは地面を固めて、水平になっているかどうか調べる。水平器なるものがあるらしいが孤児院にはない。液体が水平になる性質を利用して、似たものを作る事を考えた。硝子の板のようなものがあれば大変てっとり早いが、なかったのでその辺に転がっている木で代用しようとしたが、小さな枝のようなものでは代用出来ない。平らな板となると職人が加工したものでなければならない。ざっと見た感じ家具に使われている板が一番水平器を作りやすそうなのだ。それに麻の紐を通して、紐の位置に水の高さが揃えば水平。ベッドなんかが一番使いやすそうな板が使われている。だがしかし、家具というものは、無駄な板なんて使われていない。横に通してある木はそれがあった方が足部分が安定する。しかし無くても四本の足があれば大丈夫だろうか? 揺れなければ……。いける? 壁側板をこっそり頂戴する? 

 

 いやでも。ベッドルームで自分が一人でいる時間なんて存在しない。他の子供達も一緒だ。僅かに女の子部屋、男の子部屋に分かれているくらい。どうしよう? 昼間に風邪でも引いて一人でベッドルームに引きこもるというのも手だが、仮病でシスターに心配はかけたくない。もうちょっと速やかに手に入らないだろうか? 壊れた家具は最後は薪になってしまうので、まったく何も残らないのだ。こう考えて見ると家具職人は偉大だし、家を作る人間も偉大だなとしみじみ思う。僕は猫家さえ満足に作れない。というか――作る道具と材料がないのが致命的なのだ。木工職人の道具が欲しい。特に(かんな)。あまりに高価すぎて、冬のプレゼントとして却下されてしまった。なのでプレゼントは木材をお願いした。鉋に比べれば遙かに安いが、子供のプレゼントとしては異質。しかし、冬のプレゼントまで呑気に木材を待っていては家づくりに出遅れてしまう。いっそのことプレゼントは犬小屋にすれば良かったのではないかと思わなくもない。しかしそれも手遅れだし、きっと高価だと言われそう。街に出たついでに、木工職人のところによって安価な廃材を譲って貰うというのが犬小屋の次に現実的だったか?


 僕はふと灰色の空を見上げた。

 雪――

 六角形の結晶――

 僕が手を出すと、小さな結晶が溶けて滲む。


 雪なんて滅多に降らないのにな?

 そう思いながら、僕は子猫を一匹ずつ懐に入れていく。

 ベッドの下のハシバミの籠に入れよう。

 今晩だけは。

 そう今晩だけ。

 ついでに母猫とクロマルもこっそり連れて行く。


 猫は温かいな。

 院長先生にバレなければいいな?

 でも――

 きっとバレてしまう。

 そして院長先生は、反省室という名の一人部屋にプリプリと怒りながら案内し、毛布を一枚追加してくれるのだ。







年内最後になる、はずw

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― 新着の感想 ―
[一言] メリクリです☆ ほっこりなお話ありがとうございます!クロマル抱っこして寝たいですねぇ
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