第三十四話 魔導師vs魔導師2
いつもお読み頂いてありがとうございます!
この話をもって年内最後の投稿になるかもしれません。
年明けは1月2週目くらいから再開出来るかなと思います(脳内予定)
☆今年もあと僅かになりましたが、Merry Christmas &良いお年を☆
「連れてきている魔導師は風、闇、土……か」
影。
影は九課所属だ。
九課は存在自体が不可視なのだが、大分表と接触してきているよな……。
契約書類を作ってくれたし。
闇の魔導師。
九課に所属している以上、闇の侯爵家の者ではないのだろう。
そしてスラムでのことから考えても、刻印の魔導師だ。
魔法書類を作成したり。
人体に罪印を刻んだり。
犯罪者に人格矯正印を施したりする。
人格強制印というのは、文字通り犯罪者の人格に干渉することだ。
しかし、人格の一部分を変えるなどは物理的に不可能な為、好ましい人格のプログラムを事前に組んでおいて、人格を上書きさせるわけだ。つまりは脳の記憶を司る部分に干渉する。
するとこちらが欲している従順な人間に変わるということ。
従順な人間にはなるが、記憶もなくしてしまうため、これはかなり厳しい処置になる。
その人がその人でなくなるわけだから。
上手く悪性のみ削除するようなシステムさえ確立させる事が出来れば、もう少し事は穏便なのだが、そういった方法は確立していない。
生活に必要な記憶は残る。
例えば食事と取る行為や、ベッドで寝る、朝は起きる、そういった基本的な営み。
消えるのは自分がどこの誰であるか? 父親、母親、友人などの記憶。
真っ新な人間として過去がリセットされる。
暫く予後観察として、労働に従事する。
国有地で鉱夫をしたり、農夫をしたり、羊飼いだったり、人それぞれ色々だ。
しっかりとした労働基準の下、使用人として生きる。三年の観察後、症状が安定していると確認されると、希望者は一般社会に戻すのだが、外の世界で生きる事を望む者はそれほど多くない。
家族も分からない、友人もいない、家もない、お金もない、その身一つで記憶をなくした人間が生き抜くのは、なかなかハードルが高いのだろう。
闇の刻印は、地味に強力。
ただ、これを戦いに利用するとなると難しい。
そもそもが闇の刻印とは、罪が明らかになり、司法省管理下で刻まれることが大前提。闇の魔導師の判断で刻めるものではない。制約がハッキリしている魔術だ。
その性質上、刻印の魔導師は、司法省出向になることが多い。
もっと奥深く探って行けば何か色々出そうな魔術ではあるのだが……。
作用が作用なだけあって、あまりその辺は公にされていない。
悪用が一番怖い魔術な訳だ。
ただ、魔導師同士の戦闘では魔法解除が存在する為、それ程威力を発揮しない。その上、刻印の魔術は事前に用意された魔法陣を使う為、相手の出方を見てから縦横無尽に変化させるとうことには向いていない。そもそもが大変複雑な魔法陣の為、一つを作り上げるのに年単位の研究時間が必要と言われている。そしてその研究の成果が公式に発表され、試用期間を経て、実用化というなかなか長い道のりが用意されている。
一番研究が必要な属性だ。
そして一課などの実戦部隊には基本投入されない。
九課にいるのは、それは九課が護衛だけではなく、諜報の比重も高いからなのだと思う。
そして、召喚魔法を使う闇の魔導師はまたジャンルが全然違う。
こちらは使役している使い魔によって、戦い方が異なる。
共通しているのは、魔力量が半端ではないということだ。
魔導師のではなく魔物の。
クロマルは数に入れるのかな?
入りそうではあるが。
でもこちらから強制することは出来ない。
そもそもが使い魔の主人が同行していないのだから。
「シトリー領に入る前に、影も混ぜて話し合っておく必要があるな」
ルーシュがそう言うと、シリルも頷く。
「色々想定して準備をして置いた方が良いかもね?」
特に風の魔導師とは、ある程度息を合わせておきたい。
「お前は、水の魔導師と息を合わせなくてよいのか?」
といっても水の魔導師ってロレッタだよな?
彼女は今まで、聖魔法、しかも治癒魔法を専門としてきた。
水魔法で戦うのではなく、回復要員のような気がするが……。
「ロレッタは前線には出さないよ?」
「それはそうか」
「そうだよ。彼女はもちろん水の魔導師としても能力は高いと思う。だけど戦い方を知らない。そういう教育も実技も受けていない。あくまで後方支援。もうあんな思いは懲り懲りだからね……」
あんな思いとは、第九聖女に嵌められた時のことを言っているんだよな。
確かに危険だった。それ以上に一流の魔導師ではあったが……。
「闇の賢者を相手に、用意したことが用意したように想定内で終わるわけはないんだ。僕らの得意なものは、無効化され、僕らの計略は裏を掛かれ、僕らの思考回路は読まれる。だから僕らは今までの行動原理を逆手に取って、使ったことのない構築式を紡ぎ、ありえない事をしなければならない」
「それって?」
「何だろ?」
俺とシリルの視線の先に、宿屋が見えてくる。
「取り合えず朝ご飯でも食べようよ」
「………そうだな」
◇◇◇
テーブルに並べられたフルーツサンドとフレッシュクリーム六瓶、それと宿の女将に運んでもらった朝食を並べると、テーブルの上がいっぱいになった。
朝食とは思えないボリュームだな?
ロレッタと弟三の瞳がなんだかきらっきらしている。
並べられているのは、鶏とトマトの野菜煮込みスープと添えられたパン。それに屋台で買ったものなのだが、屋台のパンが八個もある為、これは食べきれるのか? という量になっている。
いや待て! 転移魔法陣が発動するはずだ。持って行かれたくないものは各自手に持っていた方が良くないか?
「ロレッタ、弟三、シリル、食べたい物は確保しとけよ?」
そう言うと、シリルはスープとアプリコットのフルーツサンド、弟三はイチジクのフルーツサンド、ロレッタはフレッシュクリームの瓶を両手で胸に抱くようにして四瓶持っている。え? それ? 本気か!? 朝飯がクリームのみになるのだが。
「ロレッタ、苺ジャムのフルーツサンドも持った方が良くないか?」
俺にそう言われて、ロレッタは慌てて苺のフルーツサンドを掴む。
俺はというと……。
取り合えず紅茶が飲みたい。
それとやっぱり屋台のパン。
美味しそうだから。
あとスープも必要だよな?
こんなもんか。
「クロマル良いぞ」
俺がロレッタの制服のポケットに声を掛けると、反応なしだった。
?
制服に入っていなかったのか?
朝飯には興味がない?
「ロレッタ、クロマルは?」
俺の声を受けて、ロレッタはキョロキョロした後、制服のポケットというポケットを探っていたが、どうも見つけられずにいる。
「行方不明です」
「………」
魔物は気まぐれ。
そして行方が不明だろうが、心配はいらないだろう。
「じゃあ、食べるか………」
そう言ってテーブルに食べ物を置いたところ、幾何学模様の魔法陣が発動して、転移範囲が固定される。
そう来た!?
凄いタイミングを見計らっているんだな。エース家でもそれなりの朝食が出ているはずなのだが………。
「おぉ、昨日書き取った魔法陣は大方正確だったね」
「そうですね。あ、でもこの部分見落としていました」
「そうだな、書き足す必要があるな……」
やはり――
魔法陣を前にすると魔法オタクは魔法オタクスイッチが入ってしまう。
しかし、今度はスープと宿屋が出してくれた固いパンは残った。
宿の食事は無傷なんだな?
クロマルの食指は動かなかった?
そしてフルーツサンドは各味が一つずつ残されている。
何だろう、盗人にも三分の理ではないけれど、自分の中でルールが引かれているのだろうか?
昨日の夕食は全部ごっそり行ったが……。
基準を知りたいところ。
クリームはというと……。
「私、ひと瓶だけフレッシュクリームの確保に成功しました!」
ロレッタの胸の中に、ひと瓶だけ残っていた。
手放さなかったんだな。
凄い嗅覚だな?
がっつり五瓶転送された。
クロマル………。
ふわふわのクリーム好きか……。
そこが本命だった?
口元につけていそうではある。
俺たちは残ったフルーツサンドに、クリームを盛って各味を四等分した。
四等分する時に、水魔法で切るか、雷で切るか、光で切るかで物議を醸し出しそうになったが、普通にナイフで切った。
それはそうだろ。
水で切れば断面が湿る。
雷は断面が焦げる。
炎は消し炭だし、パンは光を透過しない。
なぜ? 魔法で切ろうとした?
魔導師の性か?
フルーツサンド自体は旨かった。
屋台の店主は良い仕事する。
しかもなんというか丁度良い量というかデザートというかケーキのような感覚で楽しめた。
明日も寄って、昼用にしてもいいくらい。
ルーシュがそう思いながら三人を見回すと、弟三はあまりのおいしさに石のように固まって動かなくなってしまい、ロレッタは食べ足りないのか涙目になり、シリルはまた買おうねと二人を励ましていた。……固いパンがまだあるぞ?
その姿を見ていたら、自然と笑みが零れる。
なにか楽しい気分。
シトリー領に入る前に、vsクロマルが白熱しそうで面白い。
次はどんな手で来るのやら?
 








