【021】『雷の魔導師(別名稲妻)』
「面倒事の代償は?」
「……別荘より高い眼鏡を………」
「眼鏡はいらん」
筆頭侯爵家相手に金や物が賄賂になると思わないでくれよ?
王太子は肩を竦めて見せる。
「特注品だぞ?」
「……特注すればよいだろ?」
「金は大切に使え」
推し活で別荘を購入し、魔道具の眼鏡を二つ特注している王太子に言われたくないわ!
「冗談はさておき」
冗談だったのか? 半分本気で言っていたぞ。
王太子はごそごそと胸のポケットに手を入れる。中から出てきたのは一枚の書類。
そして、俺の目の前に書類を翳した。
悪い顔をした王太子が微笑んでいる。
非の打ち所のない王子像が台無しだな?
「ルーシュ、これが欲しくて来たのだろう?」
「用意して待ってくれていたとは、気が利くな」
「当たり前だ。気が利くのは数ある長所の一つだよ」
「ほお?」
俺の目の前には、第二王子と第二聖女の婚約破棄証が翳されていた。全文整っているが国王の印である玉璽が押されていない。
「次にエース家に行くときまでに、陛下に頂いておこう」
「条件は?」
「一、一緒に芝居小屋に『真実の愛』を見に行くこと。二、シトリー伯爵領の別荘に行き、商会の立ち上げに協力する事。三、聖女判定に立ち会うこと。四、エース家の離れに推し活ルームを作ること」
どさくさに紛れて推し活ルームとはなんだ? 一言も聞いてないぞ!
「簡単だろ?」
「一応聞いておくが推し活ルームの内容は?」
「僕の部屋が欲しいということかな?」
「エース家の離れにか?」
「そう。ルーシュの住まいに」
「却下だ」
「ひどい」
「ゲストルームは本館にいっぱいある」
「分かっていないな、第二聖女は離れにいるんだろ」
「泊まれる部屋くらいは考えておくが、自由に出入りはさせない」
「つれないな」
「近いんだから、普通に帰れ」
「帰ったら、第二聖女の就寝着が見られないだろ」
「端から使用人の就寝着など見る機会はない」
「夜中に呼び鈴で呼び出すんだよ? 悪いが水を一杯と言って」
「寝室に水差しが置いてある。自分で入れろ」
「僕が泊まる日は水差しは置き忘れてくれ」
「必ず置くと約束しよう」
「ルーシュ」
「なんだ?」
「ロマンを作るには、多少の融通を利かせる必要がある」
「ロマンは偶然に任せた方が粋だ」
「そんな事をしていては、人生が終わる」
「品行方正な王太子はどこにいった?」
「それは外面だ」
言い切るなよ!
別に一、二、四はたいした事がない。問題は三、これだけは政治に関わる。
「お前の妃は第一聖女。つまりは神官長の娘だな」
「今更確認しなくとも」
「戴冠した時に後ろ盾となるのは、教会の筈だが」
「その時に、そういう状況であれば、そうなるのかもね」
「まさかとは思うが……」
そこまで言った所で、王太子が俺の言葉を止めた。
「王太子の正妃に二年間、世継ぎが生まれない場合、第三妃まで娶ることが出来る。これは側妃にあらず。妃は魔導師という厳しい条件がある。そしてこの三人の中で魔力素養のある者を産んだ者が国王妃だ。あまり知られていないがそんな措置がある。王家が継承しているのは雷と聖魔法だけではない」
確かに、遠い昔、そのような措置が取られていたと聞いた事はある。が、そもそも、三人の妃が共に高い魔力を持っているという条件が難しい。
「第一聖女に子供が出来るのは難しいんじゃないかな?」
そう言って、雷の魔導師は艶やかに笑った。
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