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第二十八話 盟約の先に。



「まあ、周知徹底程度には見張って欲しいな」 


 か……。

 全てがたかりの専門女子のように分かりやすければ有り難い。

 元第二王子は性根を叩き直す為に、辺境に送られた。エース領ではないし、もちろん因縁のあるセイヤーズ侯爵領でもない。公にはなっていないが、黒の侯爵家領に送られたと聞いている。エース領と黒の侯爵領は南西の部分で領線が接してる訳だが、そこには険しい山脈があり、道は通じていない。王都を通って迂回する必要がある。隣接国は砂の共和国だ。交戦状態にはないが、友好国とも呼べない。もちろん同盟国でもない。一応協定が結ばれている国なのだが、オアシスを中心に小国が形成されているため、一枚岩ではないのが特徴。若干鉱脈資源の取り合いというか睨み合いがある。


 元第二王子という人間は欲望に忠実なのだろう。非常に騙されやすく洗脳されやすく短絡的な思考回路の持ち主で、ココという少女にコロッとそれはもう絵に描いたようにコロッと騙された。王族があんなに単純(考え無し)だなんて奇跡だとしか言いようのない存在だ。一歩引くと毒婦にしか見えないのだが………。何が起きてああもコロッと転がされたのだろう。王族は権力が強い以上、騙されやすいのでは困る。騙す人間とうのは、ある程度対象がどういったものに弱いか研究してくる。つまり、七大欲求プラス性善説など何に訴えかけると陥落するかということなのだが、まあ、第二王子の場合はあからさまなハニートラップに引っかかった訳だ。古今東西男の一定数は引っかかる。面白いくらい。それが性別の(さが)なのかと思うと恐ろしいが、傾国の美女という言葉があるくらいだからな……。



 ルーシュは一呼吸おくと飄々としているシリルを見る。


「顔も知ってる。目的も知っている。目的の最終地点が妾ならば、些末な事だ。危険視する程でもないが、周知徹底は約束しよう」

「それはどうも」

「お前こそ」


 ルーシュは前を歩くロレッタに視線を移す。


「一国の王太子とは思えない程の入れ込みように見えるが?」


 シリルは涼しい顔で頷く。


「国を思うから彼女があるのではない。彼女を思うから国が平和であって欲しいと願うのだ。順番を間違えると人は幸福を失う」

「さらっと恐ろしい事を言うなよ?」

「事実だ」


 シリルは光と同色の黄色い瞳を細める。


「忘れたの? ルーシュ。僕らはもっと身近な者の幸せの為に立ち上がったんだ。そうだろ? 僕らはこれからスラムで拾った子供と食事を取り、彼の服を買い、ロレッタの行きたいと言った古書店に行き、お昼を食べ、夕方から芝居を見るんだよ。それを滞りなくこなせる世界が欲しかった」

「…………」

「忘れた振りも、忘れる事も許さない。僕らは一番最初の盟約者。記憶の中に、互いの血の中に刻み込まれ、永久に消える事はない。この世に悠久の平和が存在しないなら、存在させてみせようと誓った。未来永劫続く時の中で、僕らはずっと努力をし続けるんだ。記憶の階段を登りながらね。魔導師が理不尽に扱われない国を築くと誓った。魔法を持たぬものも大切に扱うと誓った。翠の魔導師も黒の魔導師も差別されない世界。七人の賢者の記憶がそうさせる。そうだろ? ルーシュ」


 アクランド王国は七人の賢者が創成し、連綿と引き継ぐ国。王国を七つに割り、王と六人の大侯爵で分かつ国。思いは血統継承の中に繋がっているのだ。



 ルーシュは人の行き交う街を見る。

 アクランド王国は周辺国家に比べると豊かな国ではある。

 建国以来内乱が一度も起きていないのだ。

 もちろん意見がぶつかる事はある。それでも、それを武力で解決しようとは思わない。

 それをしてしまうと、国の力が弱体化してしまうと知っているから。


 中央に王都。それを囲むように六大侯爵家が配置されている。直轄領は辺境に位置するため、伯爵以下は基本的に挟み撃ちだ。王家に六侯爵家が離反しない限り、守り抜ける鉄壁の国。そして基本王家と最大の貴族であるエース家は離反出来ぬ。離反しようにも出来ない盟約なのだ。口喧嘩くらいが関の山だ。王と魔法省長官の父はよく口喧嘩をしている。そして自分とシリルも。ずっとこの関係なのだろう。むしろ――この関係こそが盟約。



「忘れないさ。忘れたことなど一度もない」


 あの時も。そしてこれからも。




 ふと前を歩いていたロレッタが振り返る。


「ルーシュ様、シリル様、見て下さい」


 ロレッタの指を指した方には朝市で売られているフレッシュクリームがあった。

 牛乳から脂肪分だけを分離させたものだ。


「あんな所にお宝が売っていますよ?」


 お宝ね。

 女の子はフレッシュクリームが好きだよね。


「さっき買ったフルーツサンドに合いそうではないですか?」


 まあ、合うだろうな。朝から濃厚そうではあるが……。 


「私、ひと瓶買って来ますね!」


 そう言って小走りになったロレッタをシリルが慌てて追う。


「ロレッタ、魔法省の経費にするからね」


 そんなふうにシリルが言っている。

 経費。

 経費は宿で出る飯だけなんだが。

 シリルが出すのかな。

 出したくてしょうがないんだろうな。

 

 


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― 新着の感想 ―
[良い点] 手の届く範囲の幸福からという動機は誰でもありそうで、そこからどういう手段と結果が現れるかですよね… アクランドが恒久平和であってほしいです。現実がなかなかそうならないからより強くそう思って…
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