【020】『(王太子的)変装』
俺とお前は特徴的な容姿をしている。つまり目が紅と黄色。目立ち過ぎる。
「俺たちは魔導師だぞ」
「……今更何を言う?」
「いや……変装の精度がな、低くならないか? 特徴的な瞳の色をしている」
王太子は首を傾げた。
「ルーシュ? 今まで変装をした事がなかったのか?」
「……いや、それなりには」
豪商の息子とかを少々。
「魔導師の変装と言えば最後は魔道具だろう」
「?」
王太子はどこからか、黒縁の眼鏡を取り出す。
「必須アイテムだ」
眼鏡を掛けると王太子の瞳の色が琥珀に変わる。
おぉー。違和感ないな。
「この眼鏡は別荘より高い」
「………」
「二個持っているから、有り難く思え」
有り難くないわ。教会を敵に回す気か!
「魔法素養検査と魔法属性検査はパスするとして、聖女等級判定に絞って潜り込もうと思うが……」
「神官長が下級神官の顔を覚えていないとかあるのか?」
「もちろん、覚えているだろう。ただ、判定検査中に声を荒らげる事もない筈だ」
「つまり、当日その場でバレてもスルーすると」
「そういうこと」
「……バレれば王太子の心証は大分悪くなるぞ」
「彼は外戚。我が妃の父だ。娘の夫の権勢を妨げる親がどこにいるんだ?」
王太子は何事もないように爽やかに笑う。
こんな時だけ第一聖女殿下との婚姻利用か? 逞しいな。
「持っている権力は正しく使わなければな」
正しくはないぞ? 品行方正な王子はそんな事は決して言わない。そして俺は義理の息子の同窓という、更にどうでも良い立場なんだが……。
後ろ暗いネズミは警戒心が強い。礼拝堂に見慣れぬ者がいれば等級判定を開始しないかもしれない。途中で入るか? 物陰に隠れているか? もう少し精度を練った方が良いだろうな。次官を丸め込めれば一番手っ取り早いが、次官長とて旨味が無ければ動かない。家の洗い出しをする必要があるな。旨味となれば神官としての出世になるが、それは最後の最後。事が大事になった時だけだ。
ただし、もし神官長に後ろ暗い事があるのならば、次官長が知らぬ訳がない。上級神官の家柄も全部洗い出す必要があるな? 家の繋がりと聖力だ。神官長が抱え込んでる者を見分けなければ。
教会はある意味治外法権。王族貴族の力が通しにくい。それが故に、聖女判定の実権を全て握っているというわけだが。もしも聖女等級の判定に不正があれば、それは想像以上に大事になる。第一聖女と思い込み娶った妃が事実上の第五聖女だった場合、王家の魔力素養が低くなる。緩やかに王家から魔力を削ぐということはどうなるか?
そこまで考えて、俺は王太子を見た。
「お前と第一聖女殿下の婚姻契約書が見たいところだ」
「見てどうする?」
「そこまで辿り着いている人間が、何もしないとは思えない」
「本来のものに二三枚足しただけだ」
「……足したんだな」
契約書を二三枚となると、もはや別物?
王太子と視線が交錯する。
「面倒事の代償は?」
王太子はフフフと笑った。
そしてこう言ったのだ。
お気に入りの眼鏡をプレゼントすると。








