第十六話 光の網
宿に着いてから私達は作戦会議の為に、ルーシュ様とシリル様の部屋に集まった。
馬車の従者は元より出歩かずに部屋で休息している。
「考えたのですが、スリを一網打尽にする為に、光の網のようなものを出現させるのはどうでしょうか?」
ロレッタは開口一番そう言った。
無傷で捕まえるのは攻撃魔術ではなく、光の魔術で捕まえるのが一番ではないだろうか?
網を上からフサーっと掛けると、手っ取り早く捕まえられて、逃げられないという。
その上、ハニーハンターに着せる、服というか網というか、そういった護符の付いた魔道具に応用出来そうだ。
どんなデザインの魔方陣にすれば良いのだろう?
専門が聖女であり、治癒魔法などの聖女科必須の魔術を優先して覚えていたので、光魔法には意外に疎い。
王立学園魔法科は、火、水、風、土などの四大エレメントと光や闇魔導師の教育機関になっている。つまり聖女科だけ切り離されているだけで、光の魔導師は魔法科にいる。すると光属性の魔導師と直接机を並べていたルーシュ様とシリル様にもそれなりの知識があるのだと思う。
でも、その前に。
ロレッタは鞄からゴソゴソとポーションを出し、テーブルに置く。
三人分の体力回復ポーション。
それと――
ポーションより大分大きめの瓶を取り出す。
双子王子が持たせてくれた謎のスムージーポーション。
林檎味、牛乳味、大豆味だ。
夕飯を微妙な感じで食べ逃してしまったので、腹ごしらえと徹夜準備をしないと。
リフレッシュをかけても良いのだが、魔力が減るので完徹前後にはポーションの方が有効だ。
私は笑顔で二人に勧める。
「どうぞ、体力を使う前に飲みましょう」
ルーシュ様は首を傾げてそれらを見ていたが、シリル様は苦い顔をしていた。
やはり兄ですからね! 双子の謎ポーションを知っていらっしゃる?
そして飲んだ経験があるという事でしょうか?
重いから、ここら辺で飲んでしまいましょう。
屋台飯に比べると魅力が格段に下がる代物ですけども。
味がね……。
味が付いて来ない感じなのですよ。
「これは、弟の激マズポーションで合ってる?」
シリル様に聞かれてコクリと頷く。
そうです。シリル様の同腹兄弟作激マズポーションです!
強烈な奴です。
飲んだ後はもう二度と飲みたくないかもと思う程の衝撃ポーション。
これ、瓶に入って居るけどもそれ程日持ちしないらしい。まだ開発中とかで。
「味というかベースを聞いて良い?」
聞かれた私は出来るだけ平静を装って答えた。
「右から、林檎に牛乳に豆乳です!!!」
答えながらこのラインナップにはして欲しくなかったと心底思う。
普通に林檎三本が良かった。
牛乳と豆乳は難易度高いよ!
「ここは、身分の高い順に選ぼう。僕が王太子だから一番だ」
「いや、待て。お前はエース家の分家の分家の更に分家のシリルだ。一番下だろ」
「身分を隠しているが本来は」
「いや、隠しているのだから、隠したままにしておいて貰おう」
「いや、今、明かしても良いのだ」
「こんなどうでも良い時にわざわざ明かすな。俺が六課長で一番上司になるからな。林檎を選ぶ」
「待て、あの豆なのが一番美味しそうだぞ!」
「それはないだろ。すっきり感からして林檎一択だ」
ルーシュ様とシリル様の本気の争いが始まった。
何か初等部の子供みたいで可愛い。
ロレッタはニコニコしながら見ていた。
どちらに軍配が上がるのでしょうか?
「ロレッタ、君はどう思う?」
二人の少年の論争がロレッタに飛び火してきた。
ここは、私も小さな子供に戻って加わるべきでしょうか?
「私は、光の網の魔法陣を一番に完成させた人が林檎で二番目の人が豆乳で三番目が牛乳が良いと思います!!!」
そう言ったら、
「「牛乳が最下位!?」」
と二人に驚かれてしまった。
え? そこ?
牛乳が二位でしたか???
じゃあ、一位林檎、二位牛乳、三位豆乳で良いでしょうか?
私達は一気に体力回復ポーションを呷って飲み切ると大急ぎで紙に向かった。
光魔法で網を出すための、構築式を完成させて、魔法陣に落とし込むのだ。
属性光の私が一番有利ですかね?
魔法科の授業で光コースと机を並べていたと言っても、本職は炎と雷の魔導師ですものね!
林檎は頂きました!
ロレッタは勝利を確信してニッコリと笑った。
私が現代魔法の構築式と格闘していると
「出来た!!!」
と言って立ち上がったのは、意外にも雷の魔導師のシリル様でした。
嘘? なんで? ホントに??
ルーシュ様と私はシリル様が書き上げた魔法陣を覗き込む。
古代魔法だ。
古代魔法の魔法陣。
現代っ子なのに、何故そう来る!?
しかもスーパーデフォルメ画というものではなくて、結構しっかりとした、というか地に足の付いた写実的な絵。こーゆーもの上手いんですね!
リフレッシュの魔法陣はなんだったのですか? と突っ込みを入れながら、まじまじと読み解いた。
ヤバい。
何か起動しそうな気がする。
光とコットンの花みたいなものが書かれていて、そこから雫のようなものが一本ずつ螺旋を描きながら紡がれていっている。何か幻想的で素敵です!
「ふふふ。光の魔導師相手に現代魔法の魔法式で勝負しても勝ち目はないからね。古代魔法での勝負なら行けるんじゃないかと思って。それに賭けて描いてみた」
シリル様が自信満々に事の成り行きを説明している。
ドヤ顔です!
「な、流し込んでみますね」
「是非、どうぞ」
凄い余裕です、シリル様。
「で、では――」
私がその魔法陣に魔力を注ぎ込むと、端から光が流れるように明滅を開始して、古代語が浮かび上がった。
『光の織り』
と書いてある。
……。
いつでも古代語はカタコトです。
魔法陣が光を帯て完成すると、魔法発動時に私達に向かって風が吹く。
何故に古代魔法はいちいちこうダイナミックになるのでしょうか?
同じ魔法を紡いだとしても、規模が大きい仕様。
魔力量の消費も少し多いと思う……。
光の魔法陣は起動起点から解けだして、一本の糸のようになり、スルスルスルスルと滑らかに光の糸を輩出する。
おぉっ。
魔法陣がそのまま糸になる仕様。
見た事がない魔法だ。
糸だけが無限にずっと出て来る。
長い糸ですね?
まだまだまだずっと出て来る。
…………。
長っ
㎞??
網は???








