表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

192/434

第十三話 どちらを選びますか?



後半は二稿になります。




 ロレッタは服をバサバサと叩いたり、髪をぐしゃぐしゃと掻き回す。



「ロレッタ、もう少しそっと、そっと」



 シリル様にそう言われて、バンバンやっていたロレッタは我に返る。

 ………。

 ちょっと吃驚し過ぎて………。

 そうだよね。落ち着いて、落ち着いて探そう。



 きっといる事には間違いないのだ。

 バサバサして可愛い豆粒さんが落ちてしまったら大変だ。

 ゴソゴソとゆっくり服のポケットの中などを確認していく。



 すると腰の辺りの一番深いポケットの中に、黒い虫ではなく綿埃とかでもなく半透明のクロマルが満足そうにすやすや寝ていた。



 ロレッタは満面の笑みを浮かべる。

 なんて可愛らしい寝顔なのだろう。

 お腹がいっぱいなんですね?

 良かったね。



 そっとポケットを閉じると用心深くボタンを留める。


 いや~。

 いたんですね!

 言って下さい!

 こんなに遠くまで付いてくるとなんて思ってもいなかった。

 基本近くをうろうろ系だと思っていたが……。

 理由があったのだろう。

 多分、食べ物関係で。エース領の焼き菓子とか気になっていたのかも。

 パティシエを目指したいと公言していたことからも分かるように、色々な領地の料理やお菓子に興味があるのかも。

 今度から御飯を買うときは五人分買おうと心に決めた。

 ついでにお菓子も色々購入しよう。

 そして私の次元ポケットに。


 そこまでロレッタは考えてクスクス笑う。



 毎回あの魔法陣を見られるのかな?

 時を止める魔術に比べれば、空間転移魔術はそこそこメジャーだ。

 初めて会った時もこの魔法を使っていたし、得意なのかもしれないなと思う。



 言ってくれたらクロマル用のポーチでも作って、寝心地のよいベッドを作ったのに。

 明日、街の雑貨屋さんで買おうかな? 庶民用の物で充分なので生地の柔らかな、クロマルが過ごしやすいデザインのものを。



 ロレッタは楽しい気分になって、歌でも歌い出しそうになっていた。

 宿への帰り道は暗くて、私達三人しか歩いていない。



 そんな時、夜陰に紛れて、ロレッタに一直線にぶつかって来たものがあった。

 ドンという衝撃と共に、ローブの内側に入られる。


 スリだと直感する。

 慣れた手口で財布を盗まれた時、反射反応のような早さで光の聖魔法を展開する。

 一瞬場が光った直後、財布を盗んだスリは身体を硬直させたが、そのまま闇に紛れて走って行く。


 宿屋への道は街灯などなく、二メートルも離れれば見えなくなる。

 ロレッタはその影が完全に見えなくなるまでその場に立ち、影の行く先を確認した。



 今日はやけに泥棒に出会う日だ。夕方から三度目だ。

 屋台飯は知人なのだから別枠として、最後のスリは完全にロレッタをカモとして狙っていたものだろう。他人からは相当のぼんやりさんに見えるらしい。



 しかし――



 魔法士からお財布を盗むかな?

 相手が悪ければ消し炭になっちゃうのに……。

 もしくは潔癖な人間だったら問答無用で殺される。




「何を打った?」

「……遅効性の治癒の魔法陣を植え付けました」

「…………あの最中にな……用意していた魔法陣でもあるまいに」

「用意していたものではないのですけども……使い慣れた治癒の魔法陣なので、身体が勝手に動いてという感じ…です?」

「相変わらず常軌を逸した展開速度だな………」



 独り言のように呟いたルーシュ様は、ロレッタを見て小さく嘆息する。

 


「で?」

「背丈からも子供だと分かりましたし、手首が異様に細かったので、孤児かそれに類するスラム街の子だと思います」

「……そうだな」


 先程、姿絵を盗まれた時は、大人の窃盗犯だったからか問答無用で雷の魔法を放っていたのに、今はルーシュ様もシリル様も何もしなかった。様子を見ていたのだろう。



「どうする?」

「…………お金は返して貰うつもりです。その為のマーキングですから」

「……聖魔法でマーキング……」


 聖女の魔法陣が、スリの居所を追うマーキング………。

 ルーシュ様が首を捻りながらブツブツ呟く。

 

 聖魔法のイメージではなかったか……。


 見逃すつもりはないのだが……。

 でもその場で取り返したら、近い将来栄養失調になりそうで出来なかったのだ。



 子供の頃からスリに旨味を覚えてしまえば、将来の盗賊に繋がるかもしれない。

 盗賊というのは、人が真面目にこつこつと溜めたお金を横から掻っ攫う人だ。

 盗む時に罪のない人間を傷つける。

 そんな理不尽な行いの肩を持つ気など更々ない。

 第五聖女の事もある。

 彼女の瞳から光を奪ったのは盗賊だ。

 生きている限り忘れない。

 盗賊を肯定するつもりはない。

 盗むとそれ以上のリスクがあることを身を持って知ってもらう必要がある。

 


 しかし、数日後に死ぬと言われて、はいそうですか……というのは。




 裕福で優しい両親の元に生まれる子もいれば、生まれ落ちてみれば両親が盗賊だったという子もいる。父親がいない子もいるし、母が病を得ている子もいる。子供はその境遇からどうやって這い上がれば良いのだろう? 生きるか死ぬか毎日がぎりぎりのライン。



「居場所は分かりますから、様子を見てお金を返すように諭してみます」

「……諭すね」

「……その上で盗みのペナルティーを受けて貰います。盗んだ人が旨味を得るのでは人々が作り上げた秩序が壊れてしまいますから」

「……そうだな。で、ペナルティーは何にするんだ?」

「…………今晩、考えます」

「……………」



 ルーシュ様は苦笑いしながら、今晩も徹夜かな? 

 とか言っている。



「怪我はないか?」

「まったく有りませんでした。最初の体当たりが一番の衝撃でしたが、力一杯というものではなく、懐に入る為のワンアクションという感じでしたね」

「そうか。で、何時(いつ)行く?」

「今夜そのままか、夜明けか迷いますね……」



 今夜そのまま追うのが一番な気もするが、夜目が利きそうな子だったので、勝手知ったる街で逃げ回られるのもな? と思う。ロレッタ達は地理に明るくないのだ。



 二三日放っておいても良いのだが、そもそも明後日には街を出るのでそんな余裕はない。

 そしてロレッタは明日お買い物をしたいのだ。本屋さんとか雑貨屋さんに行ったり、魔道具や魔石屋を覗きたい。この街の領主は光の公爵様なので聖魔法の魔道具が売っているかもしれないのだ。

 お財布は必須。 



「朝、スリをした子供の状況を確認し、対応を決めてから、ゆっくり朝ご飯を食べて、お買い物をして、お昼を食べて、お茶をして、夕食を食べてから観劇に行きたいですよね……」

「すごい食べてばかりだな」

「旅先では一番の楽しみですから!」




 窃盗は罪。

 子供でも罪は罪。

 贖罪は必要だ。

 

 その為に自分の魔力を打ち込んだのだ。

 

 そして――

 栄養失調児を見殺しにする選択肢もない。

 それは聖女の矜持が許さない。




 あの子は人から財布を盗んだが、より安全に盗む為にロレッタを襲ったりはしなかった。

 罠を仕掛けたり、石を投げたり、子供とて無力ではない。

 人を脅し傷つけ物を奪う強盗と、物だけこっそり盗む泥棒は似ているようで少し違う。

 あの子は泥棒だ。第五聖女の目に槍を突いた盗賊の性根とは違う気がする。

 


 結構良い腕をしていたのに、何故あんなに痩せているのだろう?

 そこが気になって、現行犯逮捕を躊躇してしまった。


 

 でも――



 こんな事を続けていれば、早晩捕まるのは想像に難くない。

 この国の第二聖女として、看過出来ないのだ。














評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミック】『紅の魔術師に全てを注ぎます。好き。@COMIC 第1巻 ~聖女の力を軽く見積もられ婚約破棄されました。後悔しても知りません~』
2025年10月1日発売! 予約受付中!
描き下ろしマンガ付きシーモア限定版もあります!

TOブックスオンラインストアは画像をクリックまたはこちらから
紅好き。コミック1宣伝用表紙
第3巻 発売中!!
TOブックスオンラインストアは画像をクリックまたはこちらから
紅好き。2宣伝用表紙
第2巻 発売中!!
TOブックスオンラインストアは画像をクリックまたはこちらから
紅好き。2宣伝用表紙
第1巻 発売中!! TOブックスオンラインストアは画像をクリックまたはこちらから
紅好き。1宣伝用表紙
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ