第十二話 座標
「美しい魔法陣でしたね……」
暗くなった広場で、三人だけ取り残されたようにポツンと座っている。
広場の賑わう時間は過ぎたようで、街灯は消え、街の人も明日の仕事に備え帰宅し、屋台も今日の分を売り切り、クローズしたようだ。
私達も立ち上がり、今日の宿屋に向けて歩き出す。明日の朝にはこの街を出立する予定でいたが、到着した時はもう芝居小屋の演目は開始していて入れなかったので、濡れてしまった馬車のメンテナンスと馬の休養も兼ねてもう一泊してから立つことになった。
本当は旅商人のように一月くらい滞在し、商業区や各ギルドなんかもみてみたいが、しかし今は出張扱いなので、何の名目もなく長期滞在をする訳にはいかない。特に商業ギルドは気になる。主に冷却ボックスに付いての売り出しや扱いに関して……。アリス商会を設立する時に、登録する必要があると思うのだが………。しかし最初は自分の居住地のギルドからなのだろうか? 商業系の勉強は全然してきてないので、ちょっと手探り感を否めない。聖魔法の勉強ばかりしてきたからな………。
魔法といえば、テーブルの屋台御飯が綺麗に消えてしまったが、あんなに大量にどうやって食べ切るのだろうか? アリスターは兎も角として、スライムは魔獣だから無限? ロレッタの食べかけのお肉まで転送されてしまった……。 冷めてて堅かったな……。そのまま食べずに厨房で炙り直す事をお勧めする。
「ルーシュ様は冷めてしまった食べ物を温めたりはしないのですね」
「……しないな」
「ロレッタ、肉を炙り直すのにルーシュの魔法は向いてないよ?」
ルーシュ様の言葉を継いでくれたシリル様に向き直る。
「何故ですか?」
「火力が強すぎるから」
「……確かに強そうです」
「一口大の肉なら、一瞬で消し炭だと思うな」
「ああ………」
それは想像に難くない。
ルーシュ様の魔法というのは、その溢れ出る魔力が特徴。
ロレッタの魔法がどちらかというとコントロールに重きを置いているなら、ルーシュ様は魔法質量に重きを置いている感じ。圧倒的。高すぎる才を感じずにはいられない。
ふと、時の止まった空間で「………火傷をした」と言っていた、人型のゼリーを思い出した。
あの人型のゼリーは心を象ったものだとするのならば、凝縮された思いそのものなのだろう。
ルーシュ様は基本肌を露出しない。魔導師だからか、身体全体を覆うローブをいつでも羽織っているし、手にもグローブが嵌められている。今日は魔法省制服ではなく裕福な商人服なのだが、グローブは着用している。魔力関係に類する装いなんだろうと思う。もしくは防火の魔法装備。
どうだろう?
ロレッタの水魔法で火を弱めながら肉を炙ってみるのは。
水を出しながら、火力を弱める?
いや待て。
それはあまり美味しそうとはいえない。
むしろ堅い方がましなのでは。
もっとこう、水そのものではなく空気の中に水量を増やすような………。
自分たちの周りに霧を作るのはどうだろうか?
霧の中で肉を焼く………。
串焼きの肉を炙り直す為に、霧を出して、血統継承の蒼い炎を出すのってどうなのだろう?
大分大がかりになってきているが……。
しかし火力は押さえられる……。
だが、そこまで行くと周りから見ると只事ではない。
もう少しお手軽な方法はないだろうか?
肉が炭にならないように、光の聖魔法で肉を包むようにシールドをかけてから炙ってみてはどうだろう? こちらの方が水のシールドよりは安心ではないだろうか?
どちらにしても人の目のない所で実験が必要になる。
そして――
街の広場では使えないと思う。
肉を光の聖魔法で包むなんて………。
目立つ。
目立つにも程が有る。
――結局
焼きたてのお肉に敬意を払って、買ったら直ぐ食べるを意識するのが一番手っ取り早い?
よね?
お手軽と言えば、それ程お手軽な事は無い。
うっかり祈られてはたまらないから。
「それにしても、魔法起点はエース家だとしても、どうやって座標を引いたのですかね?」
ロレッタの言葉を聞いたルーシュ様とシリル様が視線を合わせて苦笑いする。
「それはもちろんアレだろ」
「アレ?」
「きっと豆粒大のアレだね」
「豆粒大のアレ……」
ルーシュ様とシリル様が口を揃えて言う。
アレアレと連呼されてロレッタは立ち止まる。
そして思い切り服をバサバサと叩いたり、髪をぐしゃぐしゃと掻き回す。
アレはどこ?????
アレってアレですよね????
こちらから座標を引いていた?
そゆこと?????








