第四話 ちょっとこれで冷やしてみませんか?
シリル様が手を少し上げると、何処からか黒ずくめの人が出てきて、屋台料理が広がったテーブルの上をきちんと整理すると、木の小箱を二つ並べて、音も無く去って行った。一瞬の出来事。今の影だよね? 影がテーブルの上を綺麗に整理して、スペースを作るとそこにお父様の冷却小箱を二つ置いて、さささっと下がったよね?
ロレッタは下がっていた方をキョロキョロと見回す。もう居ない。夕闇に紛れて、街の喧噪の中に消えてしまった。
使いかた!?
影の使い方!?
シリル様は自分の命を守る為に付き従っている影にお父様の冷却小箱を持たせていた?
わざわざ冷却小箱を王都から持って来た??
魔法省六副課長は影を侍従のように使っている?
王族なので、常に護衛はいるのだろうけど……。
護衛に冷却ボックス???
しかもいつの間にか三つ……。
数が三つに増えているんですけども!
一つで別荘三軒分と言ってなかった?
三軒分が三個で九軒分の小箱になってしまうのですが……。
一つは小さな携帯用だから、一軒分と考えても七軒分だ。
王太子殿下のポケットマネー? 大丈夫なのかな………。
「………………あの、三つとも買われたのですか?」
直球。
そこ重要だよね? 我慢出来ずに聞いてしまった。
だって、それを売ったのは伯父様と考えられる。
お父様が発案して、伯父様が取り仕切っている魔道具といえば、収入先はセイヤーズ本家。つまりロレッタは養女なので自分の家になる。
恩人の王太子殿下から、お金を巻き上げるなんて、恩を仇で返す所業。絶対にしたくない。
私の言葉にシリル様はちょっと悪そうに笑った。
アレ? そういう顔もなさるんですね!
「案ずる事はない。この小さな物はプロトタイプで中古だ。二個目という事で買い叩かせて貰ったよ。お得意様な上に王太子だからね。献上品として貰っても良かったくらいなんだが、そこはロレッタの伯父だからね、まあ手加減させてもらったよ」
「………」
「三つ目のこれは見て分かる通り、魔石が小さい。冷却温度が低いんだ。凍るほど冷たく保つのではなく涼しく保つ、食べ物が傷まない程度に冬空くらいのイメージで作ってもらった試作品。試作品なので購入はしていない。これで行けそうなら商会として大量発注する予定でいるから、試作品として使い倒す」
「………」
とってもしっかりしているんですね! 王太子殿下。
王太子殿下は商業の腕もおありですか?
絶対商学も習ってましたよね? むしろ得意教科ですよね?
「王太子として生まれ育ったのだが、商学には大変興味があってね。相性も良かったからがっつり習った上に、習ったものを使用してみたくなってね。十を過ぎた辺りからチラホラとね、分からぬ所で実地練習などをしてた」
実地練習!?
十歳を超えた辺り?
それって聖女のブロマイドではないですか!!!
時期的にドンピシャリなのですけども!!!
「……あの、セイヤーズの養父はシリル様の上司で色々商業は遣りにくいのではないですか?」
「もちろん、商取引をする時は、立場は王太子として臨む。その方が立場が上になるからね。都合が良いんだよ」
「……都合が良いんですね」
凄い。迷わず身分を使うその割り切りがっ。
「……つかぬ事をお伺いしますが……聖女の姿絵などを手頃な大きさにして売りませんでしたか?」
「…………」
「売りましたよね?」
シリル様は、少し俯き加減で笑う。
「あれは最高の出来だった」
そう言って、詳細を思い出したのか、にこにこにこにこしている。
絵は思い出さないで下さいよ?
「実は、肌身離さずここにも一枚――」
シリル様が懐に手を入れた瞬間、ロレッタは自分の話の振り方の間違えに気付かされた。
(今、ここでそんな黒歴史出さないで!!!!!!!)








