第三話 黄昏の屋台
広場の丸いテーブルには、串焼きやらジャガ芋を皮ごと蒸したものやら、ライ麦パンにチーズと燻製のハムが挟まったものやら、ソーセージがぐるぐる巻きになった串やら、甘い果実水やら一口で食べられるパンケーキやらが並んでいた。すっごい沢山、溢れてます。肉の串焼きが種類コンプリートの五本×三。十五本並んでいる。明らかに食べきれない。もう肉だけでお腹がいっぱいの雰囲気がする量だが、そうは言っても全部食べたい。
そういえば、ルーシュ様とシリル様はどれくらいの量を食べるのだろう? お茶を飲んでいる時は、あまり食べている印象はないが………。
二人を見るとシリル様はにこにこしているし、ルーシュ様は胸のポケットから紙と書くペンを出していた……。メモ? メモするんですね? だって紙に屋台の名前が書き込まれて行っている。どこが美味しいかメモするんで合ってるんですよね?
果実水は三人とも違うものを頼んだのだ。ロレッタが葡萄水でシリル様が檸檬でルーシュ様がオレンジ。一口ずつ交換して飲もうね? と約束した……。シリル様が一方的に。
しかし、果実水こそ何杯でも飲めそうな………。ロレッタはこっそりとお財布を振る。果実水に投資しよう。ここに乗っているものは、全てシリル様とルーシュ様が払ってしまったので、ロレッタは出す隙がなかった。ルーシュ様はルーシュ様で使用人の懐から出すとか有り得ないという感じで払ってしまうし、シリル様はルーシュ様には負けられないと言わんばかりに払っていた。
なのでおかわりの果実水くらいはなんとしてもロレッタが素早く、あの二人より早く出すのだ。シュシュと。爽やかに。もう支払いは済ませましたよ? というような塩梅で。
よし。
毒味はロレッタだろうから、取り合えず最初の一口はロレッタが。聖女はそうそう毒味で死なない……と思う。知っている毒なら中和出来る。そういう訓練を受けている。
よし。
食べよう。
手を組んで祈りのポーズを作るが、はて? ここで聖女の祈りなどを始めては大変目立ちそうな予感がする。私達は今商人と町娘なので、商人と町娘仕様にした方が良いだろうと思う。
町娘はどうやって食べるのかな?
やっぱりシトリー領の領民みたいに、「食うぞ」「おう」みたいな?
こんな事で悩んでいては冷めてしまう、そうそうに習得しなければ。
そう思いキョロキョロすると、丁度後ろの家族が食べ始める所だ。よし申し訳無いけれども聞き耳を。
「王様と魔術師様の恵みに感謝して。頂きます」
と小さな少女の声が聞こえた。
そしてロレッタは石像のように固まる。
魔術師様????
魔術師様に感謝するの????
ここは公爵家の領地だから、公爵様は魔導師だから、そういう教え?
何か、食べ物を摂取する度に国王陛下と魔術師に感謝するという公爵領の行き届いた統治力のようなものにド肝を抜かれた。ああ、そういうものなのだ。シトリー領はシトリー領主への尊敬のようなものは育っていない。むしろ逆の意味のものが蔓延してそうな気さえする。
領地を統治するという事は、もっと習慣のように、自分たちの土地に感謝し、その土地を守っている者に感謝しという流れを作って、下準備が必要なものなのかも知れない。
ロレッタ達聖女だって、聖女の力を与えたもうた神にいつでも感謝している。そして毎食の度に神に祈りを捧げているのだ。習慣化……。父は、辣腕領主ではないけれど、別に領民に圧政を敷く領主でもない。伯爵位にしては珍しく魔導師だし、でも敬意は抱かれていない。きっと何も話してないからだろう……。恩を感じるには恩を与えた部分も知らせなければならないのだ。知らなければ感謝のしようもないじゃないか……。
父はきっとセイヤーズの人間でセイヤーズに誇りを持っているから、シトリー領の領主は仮初めの立場だと思っているのかも知れない。それを証拠に用が済んでも領地に帰っていないという………。伯父様のところに転がり込んでたけど……どうするんだろう?
そんな風に考えていたら、左右から先程の言葉を言うルーシュ様とシリル様の声が聞こえた。
(待って! 毒味は私が!!)
ロレッタは早口で王と魔導師に感謝を捧げると、果実水をグイと呷って毒味をしたつもりが全部飲み干した。温かった! お父様の小箱が欲しい!!! 需要は凄いあるね!!! アクランド王国中の飲み物屋に需要があるよ? 凄い量だよ! シトリー家はなんとしてもこの冷却ボックスの産業を! そしてこれは領主の魔法なのよ!!!! と恥ずかしいが声を大にして言わなければ。
そう思いながら、葡萄の果実水を買いに行くために、財布を持って走ろうとした所でシリル様に腕を掴まれた。そして――
見覚えのある小箱携帯用冷却ボックスが現れたのだ。
!?








