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第一話 ほろ苦くも甘美な世界。


闇の魔導師エルズバーグ家当主視点

〈闇の魔術師一門 領主館〉 





 闇の侯爵家エルズバーグ家の血統継承もしくは総魔力量の一番高い者というのは、何故か当主の子ではなく、傍系に出るという。それは血の濃さからいうと不思議な事だと思われがちだが、血の濃さから言うと、別に不思議な事でもなんでもない。長男と次男。家を継がなかった次男の子を本家筋から外す傍系と呼ぶが、何の事はない。血の濃さでは本家の嫡男と、独立した次男の嫡男は同じ濃さなのだ。



 だから厳密には、血の濃さは変わらない場所から出ているのだが、問題は次期当主が毎回毎回養子だという事だ。自分の子ではなく、弟の子、妹の子、そして甥の子、姪の子、もっと離れた遠縁からも出る事があるが、厳密に血の濃度でいうならば一緒なのだ。



 闇の侯爵家当主は、爵位も財産も土地も自分の子に残す事は出来ない。せいぜいが、自分の自由になる小遣い程度の金から、使用人数名で維持出来る屋敷を買い与えるくらいだろうか。それも子供の分全部となると、結構な金額になり、更に生活の面倒をみるとなると、負担に感じる事も少なくない。



 なので女児は成人と同時に婚姻を結び、家を出る事が多くなり、男児は没落する傾向にある。つまりは事実上一代限りの当主となるのだ。



 アシュリ・エルズバーグ次期侯爵当主候補。彼も遠縁からの養子に当たる。遠縁も遠縁。貴族ですらない所から顕現した。もちろん家系図は傍系であっても詳細に控えてあるが、五代前の当主の娘の子供の子供の子供の子供という、娘と言ってもメイドの子で、魔導師ですらなかった訳だが、魔力素養は一価持ちだった。一価持ちが一価持ちと婚姻し、時空の魔導師を出した頃には五代の時を経て、既に庶民となっていたのである。



 それがこの貴族のトップに君臨する六大侯爵家の当主になるのは些か疑問を感じる。だがエルズバーグ家訓は闇の血統継承保持者が当主と決められている。決められている以上破る事は許されない。なんせ親戚一同周知の事実なのだから。



 更に他の侯爵家と大きく違う所は、時空の魔導師本人以外は大した魔導師ではないという所だろう。総魔力量でいえば、序列六位の光の侯爵家にも劣るという。光の侯爵家というのは七大賢者の一人であった初代王妃陛下の弟を本流とする家系で、七大賢者本人が初代ではない為、序列は一番下位の六位になる。



 何故エルズバーグ家が序列五位なのかというと、魔力総量が一番低かったからだとも、一番最後に王の賢者になったからだとも言われている。どちらが本当なのかは知らないがどちらも本当なのではないかと思われる。六大侯爵家筆頭エース家など、産んだ子供は全員が全員一流の魔導師だと言われるくらい魔力総量が桁違いなのだ。多分、この総量だけを比べると王家もエース家に後れを取るのではないかと言われている。



 闇の魔術師の魔力総量が低いのは、闇の魔術師は召喚魔法により、闇の眷属を従えて、その眷属の魔力で戦うからだ。そもそも初代から自分の魔力では勝負していない。どれだけ有益で魔力量の高い魔物と契約するかが鍵になる。



 しかし――



 魔物は魔物だ。従えるというそれ自体が大変に難しい。まず、質量の高い魔物を召喚させるのが難しい。そして魔力総量では劣る人間を主と仰がせるのがまた難しく第二関門となる。第二関門で失敗した闇の魔導師はそれこそ数えたくもないがいっぱいいる訳だ。魔物に喰い殺されて召喚魔法自体が失敗に終わり、そのただ一度の失敗で命を落とす。



 そんなリスクの高い闇魔法とはなんなのだろう? と一族間の水面下で広がった波紋。別に侯爵家として貴族ではナンバー五位なのだ。上も上。下には男爵位まで入れれば恐ろしい数が居る。魔法など出来なくてもなんら困らないくらいに富と権勢を誇っている。



 だが、当たり前の話だが、六大侯爵家は魔法士の家系だから六大侯爵家な訳だ。魔法士ではないものは当主にすらなれない。それはエルズバーグ家訓という小さな範囲のルールにあらず。アクランド王国法で決められている絶対的なもの。この部分は六大侯爵家はもちろん王家の親類筋である公爵家、そして王家すら守っている絶対法。アクランド王国がアクランド王国である真髄のようなもの。魔法王国が魔法王国とたらしめているもの。


 そもそもが建国メンバーが全員魔法士なのだ。そこから始まったといっても過言ではない。そこは譲れないところなのだろう。



 その譲れない部分が、一番不安定なのが序列五位エルズバーグ侯爵家となる。





 難儀だな。

 そんな風に思いながら、濃い南国のコーヒーを飲む。

 苦さがまるで毒のようだ。

 そう思うと、笑いが込み上げる。



 この世は苦いなと。

 ほろ苦く甘美な所が良い。








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― 新着の感想 ―
[良い点] めっちゃややこしいお家なんですね闇家… とってもお貴族で魔導師っぽい。 [気になる点] んん、誰視点でしょ?伯父様の続きかな? [一言] 予後お大切に!
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