【018】『シトリー伯爵領(別荘付き)』
シトリー伯爵家の領地に家を買ったのか!!
恐れ入った!
「どうだろう、芝居を見た後、聖地巡礼としてシトリー伯爵領の別荘にでも行かないか? なかなか良い家を購入できた。気に入っている。招待するよ?」
「………」
招待って……。うっかり頷きそうになるじゃないか! 行くけども。伯爵の瞳の色は確認しないからな! そこは譲れない。
「小規模な領地なんだろ? 観光とかする場所あるのか?」
「まったくなかった。細々とした農地が広がっている村みたいな所だった。エース家の栄えた港街とは比ぶべくもない。そもそも規模が違う。侯爵が持っていたただの飛び地だ」
「何しに行ったんだ?」
「だから、伯爵の瞳の色をだな……」
「皆まで言わなくていい」
「いや、ルーシュが聞いたのだろう」
「そうだが……」
俺は田舎の農地を場違いな王太子が歩いているのを想像して暗澹となった。何をやっているんだ? 一国の王太子が。しかし、自分も行ったらやはり目立つのではないかと懸念する。どう見てもその土地の者ではないし。変装するか? 農夫に? まだしたことないな? 裕福な商人の息子くらいならあるのだが……。
「領地にいる時は変装していたのか?」
「もちろん。裕福な商人の息子を装って、見るからに手入れが行き届いていない荒れ地を購入した。抜かりはない。そもそも芝居小屋に行くときはいつも変装している。王子然とした格好で行ったら、皆が楽しめないじゃないか。そこは弁えているつもりだ」
芝居が好きなんだな? 本当にちょくちょく行ってそうだし。しかし、王族や貴族というのは大概商人を装うな。俺は農夫で行くか……? いや農夫と裕福な商人の息子の組み合わせは微妙だ。やはり商人の息子の友達辺りが無難なんだろう。そうやって変装はいつだって商人の息子に落ち着いてバリエーションがない。ちょっと攻めてみたくなるぞ。
「かなり広い土地を購入したから、ゆくゆくは商会の支部にするのもありだと思う」
「何を売るんだ?」
「F級ポーションとか氷漬けの花とかロマンス小説とかどうだろう?」
全部出所が分かりやすい上に、まさか自分で台本を小説化するんじゃないだろうな? ちゃんと偽名を使ってくれよ?
「商会の名前はA&Aとかどうだ?」
「おい、まさかとは思うが……」
「僕の姓とルーシュの姓の頭文字だ」
「………何を言い出すんだ。王太子殿下」
「ん? 何故突然敬称を付ける? 人払いは完璧だぞ?」
分かっとるわ!
「シトリー伯爵領は借金まみれのようでね。何か産業があれば良いのだが……」
「確かにな」
「伯爵は天才魔導師なのだが、領政となるとな……。まあ天は二物を与えずだ」
二物も三物も貰っている王太子が言った。
「つまりは何が言いたいかというと、王家も六侯爵家も自分の血統継承をそれは注意深く遺伝させているという事だ。僕など三代遡っても全員魔導師だよ。三代どころか何代遡っても魔導師だ。もちろんエース家もね」
話が本筋に戻ったな。このまま伯爵の瞳の色に言及するならどうしようかと思ったわ。
「そんなに注意深く、時には狂気すら感じる程に、王家と六侯爵家は魔力継承させているのに、祖母が第九聖女という血統で、第一聖女は出るのだろうか?」
第一聖女。それはその期十年の聖女の中で、一番の聖魔導師に与えられる称号だ。その等級をどうやって決めるかなのだが……。それは教会の管轄。








