第五十九話 幻の九課。
魔法省魔法科は九課まであると言われている。言われているというのは現存するかしないか分からない課が複数あるからだ。その最たるものが九課になる。あるかないか、いるか、いないかすら分からない。それは主に王家の影だからなのだが――
ロレッタとルーシュ様とシリル様が水難に遭った馬車から転がり出て、地面に手を突きながら咳き込んでいると、馬蹄が……。何騎くらいだろう? 三騎が四騎か………。慌てたように近づいて来て、シリル様に寄り添い、背を摩り、
「水魔導師に襲われましたか!?」とか言っている。水魔導師って………。
そもそも王太子の危機に、その辺りから湧くようにして出て来たのだから、彼らは王家の影なのだろう。黒いマスクをして、マフラーのようなもので、口元まで覆っていたし、服も全身真っ黒だった。しかも少しだけ魔法省の制服と類似している。あれって伝説の九課………。
九課………。
ゴフッゴフッと咳き込みながら、横目で見ていると、「馬車内を風魔導師に密閉させ、水を流し込んだのだな? 明確な殺意を感じる」とか言っている。いや、殺意って……。殺意じゃない。殺意なんて全然ない。
「……いや、コレには訳が……」とシリル様が言いながらもゴフゴフ噎せている。
なんか……水が直撃したんだよね。三人に。
結構な衝撃で……。
しかも心はリフレッシュ待ちだった為、完全な不意打ち。
水の水球のようなものに襲われるなんて、予測もしていなかっただけに、驚きすぎて水を大量に飲んでしまった。
「おそ、襲われた訳ではない。馬車内で魔術の実験をしていたら、想定外の事が起き……ゲフッゴフッ」
「「「魔術の実験!!!!!」」」
三人の影の声が被る。
どうしよう居たたまれない。
この中にいる水の魔術師はロレッタだけなのだ。
「いるのは六課長と聖女のようですが、誰が水を顕現させたのですか!」
「……あの、わわわ私、水の魔術師でもありまして、今、こここここ古代魔法のここここ」
「「「「古代魔法!!!!!!」」」
◇◇
ロレッタとルーシュ様とシリル様は地面に正座していた。
別に、正座しろと言われた訳ではない。自主正座だ。
そして多分? 九課の影に詰問されている。
ここにいるのは、王太子殿下であり、魔法省六課長であり、第二聖女なのだが、綺麗に並んで正座をし、九課の人間に答えていた。王太子殿下が正座!? と思う所もあるが、今は六課副長なのだそうだ。平はロレッタだけ。平というかアルバイト……。
曰く、古代魔法のクイズをしていた事。
リフレッシュの魔法陣を描き起こしていた事。
描き起こした魔法陣を、起動させてみた事。
包み隠さず全て話した。
下手に包み隠そうものなら、立場が悪くなる。
「……で、何故リフレッシュの魔法陣が水魔法のレイニングに繋がったのだ……」
そこ、尤もな疑問ですよね?
「……私達も、リフレッシュがレイニングになるなど、予想だにしていなかった事態でして、魔法陣自体は確かに泉と虹と光の古代文字が綴られていたと思うのですが……なのですが、古代文字は古代文字で現代文字ほどには詳しくないというのが実情でして……」
「その、良く分からない、古代文字が書かれた魔法陣を、全読解せずに安易に起動したと?」
「………」
他人に整理して聞かされると、凄い軽率な人のような気がする。
「軽率でした」
「本当に」
……九課の人って王族以外の扱い酷い。
聖女も六課長も眼中外というか……。
いっそ清々しいです!
それから私達三人は地面に座って、普段は会うことも敵わない九課の影の方々にお説教された。
魔法はもっと慎重に放つものだとか、わざわざ添削に流し込みをする必要はないだろうとか、後先を考えろとか。
……。
本当過ぎて言い訳も浮かばない。
謝る。誠心誠意謝る。
謝りながらくしゃみをし、謝りながらリフレッシュをし、謝りながら濡れてしまった服や馬車の水分分離を行った。裁きの庭で伯父様が見せてくれた魔法だ。習得していて良かった。旅の空で濡れたままじゃあんまりにもあんまりだった。
私達は乾いた馬車にすごすごと乗り、何かもう直ぐ日が暮れそうな夕空を見ていた。
コロナからの……脱水症状になり、嘔吐が止まらないという……。
投稿予定が少し狂うかも知れません……ごめんね。
取り合えず……病院へ……








