第五十七話 失われた古代魔法
『聖なる光、その清浄なる光にて我らの穢れを祓いたまえ、リフレッシュ』
ロレッタがその場でなんとなーくなんとなーく考えた文言を、ブツブツブツブツとシリル様が再現している。
その度に、ロレッタは顔が赤くなり熱を持ちそうになる。
ちょっとちょっとそんなに何度も繰り返さないで下さい。出来心というか、軽い気持ちでそれっぽい呪文を言っただけで、こんな事になるなんて思ってもいなかったというか……。
『詠唱』とは?
これから魔法を放ちますという宣言みたいなものだから、不発に終わると面目ない事になるのだが、発動してもちょっと居たたまれないというか……。ちょっと物々しいのだと思う。大袈裟というか、注目を集めるというか……。だからと言って恥ずかしがって小さな声でしてしまうと、それもそれで何だろう? という空気になりそうだし……。
シリル様はシリル様で魔法陣の詳細を思い出しながら、何かブツブツ言い続けているのだ。リフレッシュの呪文を繰り返しながら、
「古代魔法は人から人へと伝えられて来た魔法。しかし現代魔法の台頭と時を同じくして、この世の主舞台から消えてしまった。けれどこの世をずっと支え続けてきた魔法には違いないんだ。裾野は広く種類は豊富。その魔法がこの世から消えたなどという事はあるだろうか? 人から人へ伝える魔法は、一世代抜けてしまうと、世から消滅すると言われている。でも、技術を持った人間は、死ぬ前にその技術を伝える義務を要する。建築技術など、百年前の技術が再現出来ないでは困るのだ。そんな事になれば、人の技術は逆戻り。魔法技術だって、後退してしまう。血統継承が潜在遺伝な訳は? それは即ち、誰が魔法因子を持っているか分からなくする攪乱。魔法士を根絶やしに出来ないのは、隔世遺伝があるからだ。無自覚遺伝とも言うが……。僕の魔法士生命をかけて、古代魔法をこの世の表舞台に引きずり出すか? でも王太子をしながら古代魔法の叡智を訪ねて回るというのも些か………」
シリル様の独り言が……、危うい感じで続いています。彼は流しの魔法探求者にでもなりたかったのだろうか?
「ロレッタ。君は先程、古代魔法の使い手になった」
「え?」
使い手って。いや使い手とは言わないだろう。たった一回だけまぐれというか偶然にも発動しただけだ。使い手とは玄人の事を言うのではないだろうか?
「現代魔法と古代魔法を使いこなす、現息する唯一無二の聖女だ」
「……いえ、使いこなしては……ないですよ?」
「いや、一度でも使ったという事は、一度も使った事がない人間と同等ではない。使った、使えた、使える可能性がある、という事が、重要なんだよ」
「……はあ」
発動した感覚からすると、現代魔法の使い手は、詠唱すれば古代魔法が発動する可能性があるような気がするが……。
「雷と炎の古代魔法も紡いでみませんか? サンダーボルトとファイヤーボール辺り」
「「え!?」」
「何を言っているんだ、お前」みたいな顔で二人がロレッタを見てくる。肩身せまっ。
『全てを焼き尽くせ、ファイヤーボール』
『天の怒りの鉄槌、サンダーボルト』
ですかね?
「……いや、それはちょっと」
「ないだろ、それ」
とか言っていますが、遣るべき価値はあると思うのだが。
ただ、ちょっと気軽には出せない魔法だよね?
ファイヤーボールとかキャンプに使えそうだけど……。
そんなこんなで、二人が仕上げたリフレッシュの古代魔法陣を受け取った。
折角描いてくれたものなので、感謝してじっくり見ようと思う。








