第五十五話 串焼きの美味しいお店
「シトリー領へは何をしに行くか覚えている?」
ふと、馬車の中でそんな風に言葉を投げかけられたのは、私とシリル様の様子が別の場所で盛り上がりそうになったからかも知れない。主に串焼きの事でなのだが。何の肉を串に刺して焼いているか? という所が重要だと思う。焼き鳥なのか、焼き豚なのか、焼き牛なのか……。聞いた所によると、焼蛙とか焼き山羊などというものも在るらしい。すべて一本ずつ買って、横に並べて食べ比べてみたい所だ。『肉決定戦』というものをしてみたい。今夜は何のお肉に軍配が上がるか!?
肉決定戦一晩勝負というのを開催する? もちろん味の判定は好みというものに左右される為、優劣をつける訳ではなく、好みの一番勝負になりそうだが……。
山羊も蛙も食べた事がない。どんな味なんだろう? 堅いのかな? 柔らかいのかな? 味付けは塩と胡椒かな? でも一晩中肉に始まり肉に終わるというような催しではなく、スイーツも重要だと思う。観劇の帰りはやはり甘いスイーツで締めたい。
「肉を食べに来たんだろ、ルーシュ」
「……いえ、蜂蜜を捕りに来たんだと思います」
「…………」
ルーシュ様は、二人の意見に微妙に嘆息しながら、懐から魔法省の書類を出した。報告書と書いてある。
「どっちが書くか決めろ。俺は目を通して上に上げる」
書類仕事。
ロレッタは仕様を見て行く。普通にオーソドックスな報告書だ。書ける部分は今のうちに書いておいた方が、後のバカンスが楽しめるかも知れない。
「私が担当します」
「いや、ちょっと待って。この馬車の中は三人とも暇という部分では変わりない。ここは平等に魔法勝負で決めよう」
暇って……。
ルーシュ様は、上司だし……?
「魔法勝負ですか?」
「そうそう魔法勝負。三人で魔法の問題を出し合って、正解が少ない人が書類担当。出した本人は解答が分かるから、出題者は持ち回りで。どう?」
「「乗った」」
ルーシュ様と私の返事が被ってしまった。
だって聞いただけでとてもワクワクする、シリル様の遊び心ある提案。
面白い系だよコレ。
シリル様はごそごそと自分の荷物から一冊の古い本を取り出すと、中を開いて見せる。そこには今は見慣れない魔法陣が描かれていた。
「これは、今はもう滅んでしまったと言われている古代魔法の魔法陣。なんの魔法を顕現させる為に描かれた魔法陣でしょうか?」
一問目、魔法陣クイズだ。
おおおお。古代魔法の研究書? もしくは魔法陣の図案書?
それって出張に持ってくる本?
現代魔法陣は数式変換なのだが、古代魔法は違う。文字と絵と暗号のようなもので表現される。柊の葉のようなものが描かれている。という事は風系統だろうか? 風のメジャー魔法。
「「ウィンドカッター」」
あ、またもやルーシュ様と答えが被ってしまった。だってこう尖った葉の柊が回転するような、いかにも鋭利な風を作るような術式に感じた。この魔法陣を紙に描いて沢山持っておくと、いつでも発動させられそうじゃないか? 今の魔法士でも使えそうな……。でもここにいる三人は専門外なので、誰も流し込んで確認するという訳にはいかない。
「二人とも同時だったね?」
そうでしたとも。
「風よ、強靱な刃となれ、ウィンドエッジ」
シリル様の答え方!?
詠唱を言った!?
詠唱つけましたよ? この方。
あああ。良い線いってた。
風魔法で、手軽に使うという所まで合っていた。
いやエッジとカッターは一緒では?
ウィンドエッジとウィンドカッター一緒だよ。
そうだよね?? 言い方違うだけだよね?
正解でおっけ?








