【017】『聖女の等級2(王太子私見)』
「三代遡って、魔法素養のある者が、祖母一人。その祖母の聖女等級は九位。素敵な数字だと思わないか?」
答えにくい質問だな。むしろどう答えろと言うのだ。
「君、第二聖女の血統は知っている?」
この間知った。職安に応募して来てから調べた。
「知っているよね? 雇用主だものね。興味深かったでしょ?」
聖女フェチ怖いな。どこまで詳しいんだ。
「そもそも第二聖女に関してはそこまで遡る必要はない。シトリー伯爵家というのは新興貴族に見えるが、まったく違う。元々侯爵家が持っていた伯爵位を次男に譲って起こした家だ。まだ一代目だから新しく見えるが、当主は由緒正しい侯爵家の直系。その侯爵家は六大侯爵家の一つ、エース家のライバルに当たる家かな?」
王太子は可笑しそうにフフフと笑う。このフフフは要注意だな。感じ悪いったら。
「長男には侯爵家を継がせ、次男には伯爵家を起こさせた。本来なら使わない手なのだが、侯爵はどうしても次男に爵位を持たせる必要があった。何故だか分かる?」
アクランド王国にはありがちな理由なんだろうな? 予測は付く。
「次男が雷と同等の珍しい魔力を顕現していたからだ。長男は血統継承通り水魔法の魔導師で魔力量も申し分がない。跡継ぎとしてなんら問題ない。次男は長男に魔力量で一歩劣ったが、展開が速かった。つまりーー」
「氷を顕現したと」
「そういうこと」
氷魔法というのは、水魔法の一部だと言われている。当たり前だが物質はまったく一緒だからだ。しかし水を瞬時に凍らせるのは大変な難易度だ。マイナスゼロ度以下なのはもちろんだが、鋭利な氷を一瞬で作るにはマイナス四十一度以下と言われている。この温度を水を顕現させながら作るというのが不可能なのだ。言うなれば温度を下げる技術と、水を顕現させる技術の両方が必要。同じ属性中の多重魔法になる。理論上で考えると出来る訳ないだろ? という忙しさになる。
「氷の魔導師は天才だよ。侯爵は一代限りで終わらせたくなかったんだろうね。本家の分家として伯爵家を作った。氷を血統継承させたかったわけだ。王家としてももちろん異論無い」
あの展開の速さは血統継承でもあるのか……。早く論文が読みたい。そうすれば大分理解出来る筈だ。
「あの透き通ったアイスブルーの瞳。あそこまで薄い水色は滅多に出ない。あれは氷の魔導師の血が色濃く出ているんだ。伯爵もあんな色をしている」
「……見たことあるのか?」
「あるとも。領地まで見に行った」
「わざわざか?」
「ああ、大切なことだ」
「大切ではないだろ」
「推し活とは深いのだよ」
深いって……。ヤバいの間違いだろう。どこの世界に推しの父親の瞳の色を確認しに領地まで行く王太子がいるんだ? 忙しい身だよな? 暇なの?
「安心したまえ」
「何をだ?」
「推し活の一つとして、領地でたんまり買い物をした」
「何を買ったんだ?」
「……別荘だ」
「え?」
別荘? シトリー伯爵家の領地に家を買ったの?!








