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第四十八話 光の見える場所Ⅲ。





 公爵家はやはり外も中も豪奢な作りをしている。伯爵家とは違うわよねー。流石貴族界のトップ。エース家も裕福で由緒正しい貴族なのだが、何処かフランクな空気が漂っている。まあ、ロレッタの勤務場所が離れなのが大きいかも知れないが……。


 歴史という部分から考えれば、エース家は建国期からあるので、あっちの方が歴史は長いのだが……。公爵より侯爵の方が若干フットワークが軽いイメージなのかな?


 そんな事をつらつら考えていたが、そんな風に考えていたのは、公爵家に少し沈んだ空気を感じたからだ。病気とは辛いもので、また看病というのもなかなか難しい。常に明るくいたいけれど、ふとした瞬間に悲しみが胸の内に迫り上がってくるものなのだ。


 何度も何度も、元気だった頃を思い出す。それが恵まれていた事とも知らずに謳歌していたあの頃……。失って初めて分かる大切なもの。でも、どんなに焦がれても戻ってはこないから、多分怪我をしたその瞬間よりも、違う意味で今が辛い。



 治す事が出来たなら……。

 魔法がもっと魔法っぽかったら良かったのに。

 「えいっ」とステッキを振ると、キラキラキラと傷口が塞がっていく。

 絵本とか大概そんな感じなのだが……。



 「えいっ」どころか………。目を血眼にして細かい魔法陣を紡いでいるという………。もう少し夢が見たかった……。まあ、一般の人から見ると「えいっ」という風に見えるのかな……。絵本作家の方も一般の人だろうし……。



 そんな事を考えながら、深呼吸を一回二回とする。そして、公爵家の侍女に目配せし、部屋のドアを開けてもらった。


「フレデリカ」


 私は私は出せる精一杯明るい声を出した。意識しないとロレッタの声は平坦で、相手を心配させてしまう。人間は瞳から八十パーセント以上の情報を得るという。八割……瞳の役割は想像以上に大きいなと思う。次に大きな割合になるのは聴覚だから、出来るだけ耳から情報が拾いやすいように、沢山喋ろうと思う。


 そういうのも、最初は意識しないと出来ないが、きっと一週間もすれば慣れるのだ。慣れたら無意識で出来るようになる。早いところそうなろう。


「フレデリカ、今日はとってもお天気が良いのよ? 絶好の聖魔法日和なの。だからね、今日その怪我を全て治してしまおうと思う。ただね、目の機能全部は治らないかも知れない。明るさがどれくらい戻るかは分からないけど、戻せるだけ戻してみようと思う。でも傷は綺麗に治るよ? 痕一つ残さないから。元のフレデリカになるし、痛みも残さない。体は大分楽になると思う。それでね、次の治療までどれくらい月日が掛かるか分からないから、目の見えない生活にも少しずつ慣れていって欲しい。大丈夫。目が見えても見えなくてもあなたは聖女だ。その部分は変わらない。耳からの情報で聖魔法の執行は続けられる。ここにいる第三王子にそしてあなたの専属の侍女に細かな対応をして貰うよう訓練する。瞳の部分だけ他の人に代用して貰うの。分かる?」

「……………大丈夫です。お姉様。私はもう見えない生活にも慣れました。痛みがなければ、私は……きっと平気………」


 そう言い返す第五聖女がベッドの上で、ロレッタの手を探すような仕草をしたので、ロレッタは両手で彼女の手を包み込む。


「フレデリカ、あなたなら大丈夫。私の妹聖女はあなた一人。私が出来るものは生涯を掛けてあなたに全部伝える。いい? 出来ると思った事は出来て、出来ないと思った事は出来難い。自分の中の世界は意外にシンプルなの。だからね、あなたは出来る。そして魔力が回復したら、あなたは痛みを抑えるスペシャリストになる。傷を負った人間も、助からない人間も、老いて死に逝く人間も。等しく痛みを取って上げる。痛みを知り尽くしたあなただから、きっと患者さんに寄り添える一番の聖女になるわ」



 そう言って、フレデリカの髪をそっと撫でた。

 ふわふわの柔らかいストロベリーブロンド。

 女の子なら誰でも憧れてしまう、可愛くて甘い髪。


 後ろに控えた第三王子に目配せすると、頷いてフレデリカの包帯をそっと取って行く。


 左目の傷が露わになった。膿が完全に消失している。これで二次感染は完治した。それにしても目の当たりにすると傷の大きさが良く分かる。当たり前だが、槍で突かれたのだ。槍の刃の直径と同じサイズの傷だ。瞼が血で固まり開かなくなっている。



 ロレッタはその瞳に翳すように、魔法式を紡ぐ。虹色に明滅する大きめの魔法陣が出現する。聖女の聖魔法執行。治癒は得意中の得意だ。壊れた部分は直すだけ、切れた血管は繋ぐだけ、裂けた肉も繋いでいく。出来るだけ元通りに、寸分違わぬように同じ場所を。色の変色してしまった部分は元の色へ。出来る限り綺麗に精巧に。



 いうなれば、時計のような精巧な機械を一から作り上げるように、ロレッタも集中して、毛細血管の一つ一つまで綺麗に紡ぎ炎症を取って行く。






〈第四王子視点〉


 執行中、第二聖女の左右に膝を突いて控えていた第三王子と第四王子である自分は、第二聖女のお姉様であるロレッタの様子を窺いながら、回復魔法を掛けて行く。フレデリカにではなく、執行者のお姉様に掛けて行くのだ。魔法を長時間行使するというのはそれだけ魔力も体力もいる。何時間も魔法を使い続けるなど狂気の沙汰だ。


 本来ならもう少し大雑把に治癒させるのだが、そうすると痛みと後遺症が残る事があるので、いつか出来ると信じている復元魔法に繋げる為にも、出来るだけ元在った通りに治す必要がある。そうでなければ神経から神経に繋がらなくなる。



 三時間した所で第二聖女のお姉様はぶっ倒れて、第五聖女であるフレデリカの傷は綺麗に治っていた。凄い、やり切った。普通の聖女なら一ヶ月くらい掛けて複数回に分けて行うような複雑な治癒だ。光の聖魔法は、特に瞳と脳が難しいと言われている。良くやり切ったな? ぶっ倒れた第二聖女のお姉様を支えながら、第四王子は短く嘆息した。自分なら出来ない。それだけは分かる。








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― 新着の感想 ―
[良い点] 2ことロレッタサンが突出し過ぎてて心配ですね、お仕事偏らざるを得ない?チームワークがんばれ…フレデリカさんもちゃんと元気になれますように。
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