第四十七話 光の見える場所Ⅱ。
ロレッタと第三王子と第四王子は王家の馬車ではあるが、紋章などは入っていない四人乗りの馬車で公爵家に向かっていた。馬車に乗って直ぐ三人とも酔い止めのポーションを呷った。……アレだよね……自分でポーションを作れるからか、聖女科の生徒って、もの凄くポーションを飲む敷居が低い。お茶みたいに飲んだよね………。
アレから、最後の聖魔法はいちいち聖魔法士が打つのではなく、ポーションを開けた瞬間に発動するように、蓋にでも魔法陣を付ければ? という話になったのだが、それは瓶自体が魔道具になる為、量産が……。しかし量産化の目処は立たずとも、取り合えず可能かどうかという実験はするべきでは? となり、そのまま完徹……からの馬車。という事で……酔うという………。
三人で話し合った結果、いつになるか分からない複写ポーションを待つよりも、取り合えず完治させようという事になった。やはり目が見えることは素晴らしいが、傷を開いたままにはしておけない。今日はポーションではなくロレッタが直接聖魔法を執行する。
しかし――完徹開けというのが……コンディション最悪という………。
「第二聖女のお姉様、取り合えず馬車の中で申し訳ありませんが、これを摂取しましょう」
そう言って差し出されたのは……バスケットに入った王宮料理人が作った朝食……ではなく、第四王子特製のポーションだった。
「体力回復ポーションです。初歩の初歩ポーションですから、僕のでも全然余裕でしょう? 飲みましょう?」
第四王子のお手製?!
しかもでかいっ。
なんでポーションがこんなに大きいの?
普通四、五センチくらいの瓶なのだが………。
これ、十センチ、いや十五センチくらいあるよ? 最早ポーションというサイズ感じゃないんだけど?
「どどどうして、こんなに大きいの?」
一応聞いて置く。そうで無ければ怖くて飲めない。
「それはですね、栄養満点のアボガドとレモン汁を混ぜました」
「アボガド!?」
ああああの、南国のフルーツ? いや野菜? 木か草か分からないくらい見た事も無い森のバターと言われる食べ物だ。コレが?
ロレッタはドロッとした瓶の中身を陽に透かす。ちょっとグレー掛かっているけども、大丈夫なの? 本当に食べて大丈夫???
しかし、完徹明けに森のバターって。そんなさっぱりしないもの選択するかな?
「……実は僕、栄養食に凝っていて、食べなくても稼働出来るポーションというものを少し試しているのです。そうであれば飢えとか減りますよね? 携帯食にもなるし。なのでアボガド以外にも色々実験していて、オレンジとかレモンとか林檎とか、フルーツは無難に美味しいです」
「……へー」
オレンジバージョンが飲みたいよ?
本来ポーションというのは、飲んだ瞬間光が弾けて、飲むというよりは、光を体に映すという感触なのだが、これガッツリ系だね。絶対光と共に消えるんじゃなくて、胃に残る奴だよね? というかスムージーでしょ、コレ。
「いたいたいた頂きま……」
す」と言った時には、もう戻していた。というか口の端からつーと垂れる。
すっぱ。完徹の胃にレモンの酸が………。しかもポーションが発動しないというか……ちょっと口の中でキラと光っただけで、直ぐに消失した。
その後に続くのは何か青臭いというか………味を付けた方が良くない? というどろどろした物質が二百CCくらい? これさ……ヨーグルトとか蜂蜜とか入れたら美味しいかもとか思わなくもない? 甘い系も有りだよ? 何故か第三王子も涙目になりながら、一生懸命飲んでいる。……私は家でアレンジしよう……そうしよう。
第四王子はもう少し味とかに拘った方が良いと思う。……彼は昔からあんな味覚だったっけ? ちょっと常人とは違う感じの感覚だ。だって謎ポーション完食してるし……。
「第二聖女のお姉様?」
「何?」
第四王子が横目でロレッタの持つポーションの残量を確認しつつ話し掛けてくる。
「痩せているので飲んで下さい」
「……後で甘くして飲むよ?」
「甘い方が好みですか?」
「うん」
「じゃあ、次からは甘くしますが、第五聖女のお姉様に治癒魔法を展開するのですよね? だったら体力を付けておかないと」
「………普通のものが食べたい。クッキーとか、ケーキとか、美味しい物。栄養だけの謎ドリンクは……心が……」
折れるという話だ。
「……実は、クッキー味とムース味とスコーン味のポーションも用意していてですね……」
「いや、待て待て待て待て」
ロレッタは慌てる。もう謎スムージーはいい。というかそれ小麦味って事でしょ? 遠慮しときます。
「是非、味見して下さい」
「結構です!」
ロレッタは可愛い後輩に即答した。
迷いは一切無い。
「第二聖女のお姉様、可愛い後輩の成長を助けるのが、先輩の役目では?」
「…………」
ごり押しして来たな!
「可愛い後輩の謎ポーションの被験者になる勇気は……ちょっと命が惜しいというか………」
「何を不吉な事を言っているんですか? とっとと試飲して下さい」
「無理だってば」
「無理でも良いです」
「良くないでしょう?」
「飲めば分かります」
「飲まなくても分かるの」
「分かる訳なじゃないですか?」
「分かる。アボガド味を飲んだから想像つくよ。ちょっと料理の基礎を教わった方が良いって」
「はぁ? 誰かさんの所為で暇がないんですよ」
「いや、隙間時間を利用してね?」
「隙間時間に料理を学ぶんですか? 隙間の使い方間違ってますよ? 隙間っていうのは、料理中などに手の空いた時間を有効に使う為に本を読むとかじゃないですか? 料理は隙間じゃなくてメインなのでは?」
「それはそうだけど。仕事中に手の空いた時間でパパッとする料理も隙間と言うでしょ?」
「それは習う系じゃなくて、慣れてる系の料理なんですけど」
そんな謎ポーションを挟んで第四王子と言い合いをしている隙に、公爵家に到着していた。
良かった。セーフだったね。謎スムージー二弾は……口にしなくて済んだよ?
 








