第四十五話 糸口。
ロレッタ視点に戻ります
ロレッタは自室のベッドに入ってから、眠れぬ夜を過ごしていた。
眠れない。何故なら明日のポーション作りの糸口がつかめていない。
どうすれば?
その方法が駄目ならば別の方法を考えよ? アプローチはどんな方法でも良いのだ。成功が全て。時は止められない。そもそもポーション作りに本来時を止めるというのは可能性の一つでしかなかった。しかし――可能性の一つではあるが、試せるものと試せないものが当然ある。確定でもない限り試す事は許されない。
そしてもしその可能性が確定だったとしても不可能な訳だ。大前提。ポーションを作る度に時を止めるなど、実用化不可能。
そもそもだ。成功した時と失敗した時の環境の違いの差異を探していた訳で、その一つが時が止まっていたという事だった。だかしかし、よくよく考えれば薬草とは既に枯れた草な訳で。言うなれば枯れた草というものは、もう時を止めたものだ。薬草は生きていない。時を止める必然性がない。もっと別の何か……。
あの時私はドロドロ人型ゼリーに助手をして貰ってポーションを作っていた。
彼は凄腕の助手で、私の欲しいものを予測して差し出してくれるような人だった。
彼は間違えることが少なくて、今日学んだことを復習していたように思う。
思うというのは、私は二十四時間起きていた訳ではなく、疲れたら寝ていた。
彼はどうだっただろう? 私が起きている時間は寝ているなんて事はなかった。
私が寝ている時間はどうしていた?
つまりその時間に復習していた?
どうやって?
ロレッタは気になってクローゼットを開く。スカスカのクローゼットだったのだが、ルーシュ様から頂いた服と、シリル様から頂いた服で、少しずつ埋まりだした。何故か彼ら二人は、事あるごとに服をプレゼントしてくれるのだ。可愛らしい服ばかりでついつい袖を通したくなる。
そんな中でも、聖女の修道服というのは割合目立つ。夏に着る薄手のものと、春や秋に着る長袖のものがあるのだが、裁きの庭で着ていたものは、やや厚めのものだった。まだまだ春先だった事と、肌寒かったのとで、羽織のある制服を着ていたのだが、それはクローゼットには入っていなかった。
当たり前だ。あの日、あの時、私は黒い血を一度浴びてしまったのだ。あの制服は伯父様が水魔法を掛けてくれたから、綺麗は綺麗なのだが殺菌はしていない。なので燃やしたのかな? でも違う気がする。聖女の第Ⅰ種制服――処分しにくい物だよね? ちょっとポイとはしがたいもの。めちゃくちゃ高い作りな上に聖アイテムだから、一応一言あってから処分しそうな気がするのだ。
だからってクローゼットは入っていないだろう? 廃品扱いで何処かに厳重に隔離してある? 今の今まで考えた事がなかったが、考え出すと気になる。キョロキョロキョロキョロ辺りを探していると、ベッドの下に魔道具の箱が置いてあった。これかな? 四角い衣装ケース。クローゼットには入れない、季節外の服を入れたり、帽子なども入るのではないかと思う。ここに素手で触らぬように注意しながら入れた? そこまでしなくとも、普通に燃やして大丈夫だよ……と思わなくもないが、気を使ってくれたのかな?
ロックが掛かってる。このままでは開かない。でもここにある以上私の物扱いなのだろうし、鍵も私が持っている? でも鍵穴がない。というか魔法でロックされている。
ロレッタは魔道具の箱をしげしげと眺めた後、全体を確認する。ロック箇所は一カ所だ。そんなに何重にも掛けてはいない。それはそうだ。制服だったら誰も欲しがるまい。間違えて開けてしまわぬ為にしている鍵なのだろうし。
鍵は魔法陣の筈。その辺にあるのではないかと、ウロウロと探す。
すると、そんなに時間が掛からずにクローゼットの中の小物入れに白い封筒が入っていた。
見覚えがないから、ロレッタの私物ではない。
しかし、ここに入れられている以上、ロレッタの所有物。
ならば、この中に鍵が……。
そう思い、開けると中から一枚の魔法陣の写しが出てくる。
十中八九これだ。
この魔法陣は魔法士でなくても使える。
つまり魔道具を使うための鍵なので、翳すだけで良いはずだ。
いそいそと衣装ケースの封印箇所に当てると、小さく発光して、カチャリと鍵が解除される音がした。
恐る恐る開けると、予測通り聖女の第Ⅰ種制服。
ベールは無かった。確か人型黒崩れゼリーを入れた時に取り、そのままだったのだろう。
そして制服はやはり汚れてはいなかったが、除菌は必要だろうと思う。
制服に手を翳し、魔法陣を出現させる。
執行はリフレッシュ。
制服の下部から魔法陣を通すように殺菌して行くと、消毒済みの所から虹色に明滅し、消えていく。
丁寧に二度リフレッシュを掛けた後、ロレッタは制服を持ち上げた。
リフレッシュを掛けた時の僅かな違和感。
聖女の制服は大変緻密な作りをしているのだが、飾りに隠すようにいくつかのポケットが付いている。魔法陣の写しを何枚か入れたり、魔法式などを記入した紙を入れたり、本来は神官等が持って付き添ってくれるのだが、念のため、もしもの為というあんちょこ用。
そこに何かが入っている違和感………。
ごそごそと探って取り出すと、それは大量のメモだった。
達筆で書かれている。
――心残りがあるのです。
第五聖女さまの瞳を治して差し上げたい――
そんな声が、脳裏に響く。
それは一つの残響音。








