第四十話 広大なエース家の庭。
ロレッタが、第三王子と第四王子に事情を話すと、彼らはバスケットに詰め込めるだけのケーキやら焼き菓子やらを詰め込んでロレッタを送り出してくれた。
昨日から一睡もしていないので、それでは頭の巡りも悪かろう? とのことで、明日の朝再度同じ場所で会う約束をして別れたのだ。
しかし――エース家の庭広いな………。王都………しかも一等地。それでこの広さ??? ロレッタは遠い目をして端の見えない森を眺める。
ロレッタ……勘違いよ? あれは森じゃないからね? ダイナミックな植木? だよ? 庭に森があるわけないじゃないか? そんな風に自分に言い聞かせる。ちょっと濃い緑が続いているだけだ。
王宮だって広いじゃないか?
だからきっとエース家だって広いんだ。
でも領地の城でもないのに、この広さ……?
シトリー家のタウンハウスは、賃貸になっているので、あまり行っていない。しかし、かなりコンパクトハウスだ。そして庭はボサボサだったと思う。そろそろ雑草茶でも収穫に行った方が良いかしら?
………でも、草むしりに行っている暇が……。
ポーション作りの方が……優先だし。
そこは当然、考えるまでもない事なのだが、ボサボサというのも気が引ける。
完全に手入れの行き届かない荒れた家という事になってしまうではないか?
…………賃料が落ちる……。
シトリー領に行くまでに伯父様に相談しよう。そうしたらきっと良いアイディア………。そこまで考えて、シトリー家の人間は全員問題を伯父様に振っているのではないかと気が付き、顔が青くなる。あまりにも無責任ではないか?
そもそも賃料の中に、手入れ賃みたいなものが含まれているのだ。やはり賃料を懐に入れている人間が解決するべき問題。
伯父様ではなくお父様に相談しよう。それが筋と言うものだ。
そんな事をつらつら考えていたが、あのブラックスライムは影も形も見えない。
庭に突っ立っていれば、甘い匂いに誘われてやってくると確信していたのだが、その予想は裏切られた。
来ないんですね?
気配もないよ。
探す??
この広い庭を??
ロレッタは広さに途方に暮れながら、庭を三周してからアリスターに泣きついた。
最初からそうしろという話だ。
◇◇◇
アリスターの使用している部屋は離れの一室で、シリル様の『自称、僕の部屋』
とロレッタの使用人室とはまた違うエリアにある。使用人部屋は目立たぬ廊下の突き当たりから、使用人区域に入るのだ。
シリル様は東南、ルーシュ様は中央、アリスターは西。
なので、ロレッタは西のテラスにアリスターを呼び出してお茶の準備をした。
が、しかし、アリスターの膝にはあの可愛いぽよんぽよんした生き物がいない。
………別行動中?
「ロレッタお姉様、これが王宮の菓子職人が作ったケーキですか?」
「…………そうそう。アリスターとクロマルにお土産にと思って。第三王子殿下と第四王子殿下が持たせてくれたんだよ」
「そうなんですね。ありがとうございます」
「第三王子殿下と第四王子殿下は来年からアリスターの先輩だから、今度紹介するね?」
「はい」
「それでね、クロマルは何処行ったか知ってる?」
「もちろん知っています。使い魔とは魔力で繋がっているので」
「どこに居るか教えて貰っていい?」
「駄目です」
「え?」
「駄目です」
涼しい顔で二度も言った。
つまる所、絶対教えないという??
「なんで?」
「クロマル曰く、面倒事の匂いがプンプンするので、姿を隠すとの事です」
「…………」
それで影も形もなかったんですねっ!
ロレッタはやけくそになって心の内で突っ込んだ。
「嗅覚鋭いね………」
「猫ですから」
「猫なんだね」
ブラックスライムじゃなくてね……うん。








