第三十五話 王家の動きⅡ
政略結婚が義務なら、義務の中で最善を選ぶのも貴族の強かさですよ?
強か………と言われても……。
え?
という感じだ。
私は第四王子であるメレディスの瞳を見つめる。
ライラック色の瞳は、特にいつもと変わらないように見える。
淡々として、マイペースな少年……。
「メレディスって、自分が芝居小屋の主役になっても、全然平気なタイプなの?
例えばさ『玼物令嬢を成り行きで娶った第四王子の悲劇』とかそういう演目」
第四王子の口から「ハハ」という乾いた笑いが漏れた。
え? 感じ悪……。
「王族に取って市井の演目になるくらいの恥は、覚悟の上ですよ? 王子とか王女とか皆それくらいの覚悟は出来ています。沢山の人に晒される立場ですからね。活字になったりとか、吟遊詩人が語る歌になったり、無駄に肖像画になったり、ブロマイドになって配られたり、絵本になったり、伝記になったり。まあ、日常茶飯事です。聖女もそんな部分はありますけどね? 教会の顔ですから」
「……凄いね……。割り切っているというか、プライドがないというか、心が広いというか、無関心というか……悟っているというやつかな……」
「……恥なんて、百以上掻いてますよ? 今更一つや二つ増えた所で……。幼少期にカティスと二人で手を繋いだブロマイドが出回った時、色々と諦めました。それからはいちいち動じません。動じるだけ精神力の無駄遣いです」
双子王子のブロマイドか……。確かに幼少期の物は公式から非公式まで沢山出たんだよね……。私も一枚欲しくて父におねだりしたっけ? 一枚一枚手書きだから非公式でも馬鹿高くて。とても手が出せなかったわ。瞳の色が違うだけの、小さな王子様。あれは……あまりの愛らしさに需要が後を絶たず、もの凄い数が出たんじゃないかしら? 王家も少なからず儲けたのでは?
あのブロマイドの発売、メレディスはちょっと傷付いたのね……。あんな愛くるしい姿だったのに……。背景にライラックとか描かれているんだよね? カティスの瞳の色はアッシュグリーンだから、葉の部分がカティスで花がメレディスみたいなイメージだったのかな? 懐かしいな……。
「………付かぬ事を伺うけど、あのブロマイドは一枚くらい手元に……あった」
「……りしません。一枚もありません。自分のブロマイドを取っとく人間なんているんですか?」
いや、いるでしょう。世界はそんなに狭くない。色々な人がいるのだ。自分のブロマイドが気恥ずかしくて、見ることが出来ない輩がいれば、じっくり見てはニコニコニヤニヤする輩だっているよ?
あぁぁぁぁぁぁッ!
ロレッタは凄い事に気が付いた。第五聖女だ。第五聖女はコンプリートしているに違いない。少なくとも第三王子の物は公式化から非公式までコンプリートしている筈。金に糸目を付けなくて良い公爵令嬢だよ? これは期待出来るでしょ?
それに気が付いたロレッタは、グフフと笑う。
見せて貰おう。絶対見せて貰う。
「第二聖女のお姉様」
「何? 第四王子殿下」
「悪い事考えてるでしょ?」
「……か、かか考えてないよ」
「噛んでますよ?」
「…………」








