【015】『王太子殿下の趣味2(深め)』
「そんなことは一言も言っていない。第二聖女推しだ」
王太子は当然と言いたげな様子で頷いた。いや、お前の妃は第一聖女殿下だ。そこは間違いない。俺たちの一個下。今年で十八歳の第一聖女。彼女の卒業を待って結婚したよな? 王太子の結婚の儀にしてはこぢんまりとしていたが……。貴族は参列していないが……? なんで参列していないんだ? 確か……礼拝堂で誓約式だけを行い、改めてセレモニーをするとかしないとか……。まだしていないけど。
「ここは嘘でも第一聖女殿下推しだと言うところではないのか?」
「嘘は良くない」
嘘と欺瞞にまみれた王太子が言った。嘘も方便と言うだろ? 状況と立場を考えろよ。
「『真実の愛』演目のタイトルはこれで良いだろうか? 先程も言ったが僕は一言一句第二王子とココ・ミドルトンの台詞を憶えていてね。台本を書いてみようか? いやしかし、この目で見ていないというのが大きなネックだ。やはりあの場にいた者に再現して欲しい。それに僕が書いたら僕が見るときに先が分かってしまい楽しめない。悩ましいな……。もちろんエース家にはチケットを届けさせて貰う」
えー。受け取るけども。
「第一聖女殿下とは上手くいっているんだよな?」
俺は国の未来が心配になってきた。腐っても王太子というか、腐っても雷の魔導師。王家の血統継承が顕現している王子だ。彼の子孫が是が非でも欲しい所だろう。
プライベートには突っ込みたくなかったが、心配になり聞いてしまった。そう言えばだが、学園で王太子と第一聖女が仲睦まじく歩いている姿を見たことが無い。興味がなかったともいうが、しかし一度くらい見てもおかしくはないだろう。婚約者なのだから。
王太子は意味ありげにフフフと笑う。何故わざわざ笑う。溜めないでハキハキ答えろよ。
「彼女の血統を知っているか?」
「神官長の娘だ」
「そうだね。神官長は王子の妃にならなかった聖女を娶る権利がある」
つまり王子が上級聖女と婚約を結び、王子と婚約が成立していない聖女は神官に婚姻の権利が生まれる。聖女の系譜を、王家、公爵家、六侯爵家の次に作っている家系だ。聖魔法持ちが出たところでなんらおかしくない血統。
「ほら、僕って聖女フェチだからさ」
三度目の宣言だな、その言葉。一生忘れられそうにない。
「聖女には誰よりも詳しいと自負している」
ほー。第一聖女の血統。それこそ神官の仕事の内だ。
「神官長は聖魔法を使えない。神官長の母が第九聖女だ」
「つまり祖母が第九聖女ということだな」
「そうなる。そしてもちろん祖父も魔法は顕現していない。更に曾祖父曾祖母共に魔力なしだ」
「………」
「エース家の当主は紅の魔導師。前当主も前々当主も。そして母方も全員魔導師。何故なら六侯爵家同士で婚姻を結ぶことが多いからね。神官長の家系は六侯爵家にあらずだ。王の賢者の家系ではない」
「王の賢者の家系ではない貴族は沢山いるが?」
「確かに沢山いるね。君は第一聖女の聖魔法を見たことがあるか?」
「……俺は聖女科の授業を覗いていないからな?」
見たことがない。第二聖女の水魔法は瞼に焼き付いているが。鮮やかすぎて忘れられない。無自覚なんだろうが。
「今期の聖女はワンツーが抜きん出ている。そういう噂、聞いたことがあるよね? 誰が言い出したんだろうね?」
王太子の明るい瞳が細められる。
本当にここだけの話だな?








