第二十八話 三徹は無しの方向で。
クロマルの体重を把握しておきたいな……。と思う。全て集まって何キロなのだとか? 豆クロマル一匹分はどれくらいなのだとか? ただ、やはり総重量が一番大切だろうし、それは後でアリスターとロレッタに体重測定を頼むか……。
クロマルはというと完全に眠っている。
「時にロレッタ。裁きの庭の最後に使った抗体、つまりお前が時の止まった空間で開発したものなのだが、理論が確立し、製造が可能、その上自身に使って治験出来たと考えて良いな?」
「……確かに、私の体は今の所、副反応的なものはありません」
「ならば、製造工程を明らかにし、材料を揃えて生産ラインに乗せたい。どれくらいかかる?」
「直ぐに出来ます。シトリー領に行くまでに双子の王子殿下に引き継ぎます」
「そのポーションはポーションという名前ではなく、違った名称を付け、商会で取り扱う」
「……アリス商会で扱うなら、製造は双子王子には秘匿になりますか?」
「いや、そもそもシリルの立ち上げた商会だから、王家、エース家、そしてたぶんセイヤーズ家も絡むだろう。今更双子王子に秘匿にする必要はない。そもそもがあの抗体は最後は聖魔導師が必要となる。そうだろ?」
「自立した薬として扱えないのが大きなネックですね……」
「自立させる方法はないのか?」
「………いえ、あの時は急いでいた事と、自分がその場にいる事を前提として作ったので……そういう仕上がりになりましたけど……どうなんだろう……。説明しますと――」
「ちょっと待て、説明するのにどれくらいの時間が掛かる?」
「三徹覚悟くらいですか………。光魔法と闇魔法の反射反応からの説明になります」
「反射する事は分かる」
「はい。反射と言ってもですね、体内で反射反応が起きてしまうと、大きな損傷が起こるという事なのです――」
「俺は三徹する気は無いのだが……」
「じゃあ、二十四時間くらいで纏めますので……」
そう宣言したロレッタは早口で捲し立て出した。普段の三倍速くらいだろうか……。くーっ。そこまで早く話されると俺の方の処理速度も休む暇無しだ。しかも光魔法はロレッタの専門。普通に考えて俺より詳しい。専門分野を専門でない人間が百パーセント理解をしながら聞くとなると俺の方の集中力も高いレベルが要求される。
三時間経った頃には、アリスターとクロマルは舟を漕ぎ、俺は茶を一滴も飲まずに彼女の話を聞き切った。そして疲労困憊………。
「ロレッタにシールド魔法を使える教師を付けようと思ったが、伸ばした方が良いか?」
「……はい。光のシールドで痛い目に合ったばかりなので、出来れば水と光の融合方向を優先したいというか……。でも聖魔法での戦い方の初歩くらいは知りたいですが………」
「では、取り合えず、シトリー領に行く前に三回くらいの集中講義を依頼しよう」
「……ルーシュ様」
「なんだ?」
「私、第五聖女の元に通いながら、ポーションの生産ラインに目処を付けて、御者の技術や水と光魔法の集中講義と家庭教師をとなると、侍女業に支障を来します」
「……侍女業は取り合えず、シトリー領に行くまでは休業でいい」
「…………」
「……いやなのか?」
「……ちょっと、不安というか」
「じゃあ、出来る範囲で週二回二時間くらいでいいんじゃないか?」
「……そんな少なくなってしまったら、私の将来の終身雇用が……」
「………大丈夫だ。ロレッタは侍女兼聖女兼水魔導師兼家庭教師という扱いにする。もちろんそれによって評価を下げるような事はしない」
「……そんな侍女はあまり聞きませんけども?」
「それはもちろん滅多にいないが……。良いんだそれはそれで新しいから。アリスターも闇魔導師兼パティシエだし」
「………終身雇用から遠のいていませんか?」
「遠のいてないぞ。むしろ近づいている」
「ホントですか!?」
「本当だ」
ロレッタは嬉しそうに、また少しクネっとしている。
あのクネクネはマストなのか?
「それではルーシュ様、抗体の話なのですが……」
「ちょっと待て。今どれくらいの地点まで来た」
「三倍速で話しているので本来七十二時間必要な所を二十四時間で端折ってますから、今はつまり二十四分の三時間になり、八分の一辺りでしょうか?」
「…………」
聞かぬ訳にはいかない。
自分の所の商品だからな。
しかし、ここから二十一時間はキツい。
一日三時間の七回に分けよう。
俺の為にも。
そして――
皆?(誰?) の為にも。








