第二十七話 使い魔の分裂。
アリスターは自分の両親の事を無情に切り捨てたが、孤児院の周辺にわざわざ捨てた部分は『死んでよい存在』と思った訳ではないだろうとは思う。死んで良いならその辺の目立たない場所に捨てるだろうし。
王領とは言え、辺鄙な場所にある孤児院にわざわざ行くのは少し手間だ。しかしは保身であるのも事実だろうし、捨てた事も事実。多少はという程度で、感謝などする必要もないが……。
クロマルはプリンを食べ終わって、またトロトロと蕩けだしている。アレはもう直ぐ眠るんだろうな? 結構のどかなスライムだな。
「アリスター。この前の裁きの庭での事件は知っているな?」
「……もちろん知っています。僕の魔力とクロマルは繋がった存在だから」
「そうか。ならば話は早い。何故クロマルが居たか、そしてアリスターの魔術について順序立てて話して欲しい」
アリスターは首を少し傾げる。
「……クロマルはブラックスライムなので、よく分裂するんです」
「そうみたいだな」
「分裂して、誰かの肩に乗ったり、衣服に潜り込んだり、厨房に行ってお菓子を探したり、割と自由と言いますか」
「成る程。割と自由自在に色々な所に出入りしていると」
「……僕との約束でそんな遠くには行きません。基本はエース家の敷地内です。敷地内と言っても大変な広さですけども」
「まあ、猫的なものには十分な広さではあるな」
「……でも、クロマルは大変賢くて、更には好奇心旺盛で、ロレッタお姉様にくっついて外出する事もあります。誰にも気付かれないようにですが」
「……俺にはくっつかないの?」
「……ルーシュ様にはくっつきません」
「なぜ?」
「それは、気付く可能性があるからではないかと」
「……へー」
ロレッタは気付かないと……。
まあ、魔術を使えば気付くのだろうが。それ以外はのんびりというかぼんやりというかそんなに注意を払って生きているタイプでは無さそうだしな。
「で、あの日も好奇心が勝って王宮にくっついて行ったと」
「あの日はあの日が特別という訳ではなく、出会った時に盛大に分裂したモノが全て回収仕切れていないという状態でした。つまりは何匹か別の場所をうろうろしていたという感じで。でも最悪空間魔法で回収出来るので、見付かったら空間を割いて逃げようか? みたいな気持ちはいつでも持っています」
興味深いな。空間魔法。しかも使いようによっては相当便利。後で彼が出来る事は漏らさず全て聞いて置く必要があるかもな?
「で、ロレッタが死にかけて時空間魔法を行使したと」
「……僕ではなく、クロマルの判断です。そもそも僕はその場にいなかったですし」
俺はクロマルをまじまじと見つめる。
蕩けてる。融解してる。でも――
賢いな。
なかなかあの状況でああは対応出来ない。
主人の命令ならともかく、ロレッタの体に起きた事を、正確に理解する洞察力と、自分に何が出来るか考えて即断からの行動力。
そして、ロレッタを助ける為に骨を折った。
あの時あの場所で、クロマルの存在は誰も知らなかった。
見て見ぬ振りも出来た筈なのに、時空間の魔力行使を行った。
賢いだけじゃなく、良い奴なんだな……。
「………触っていいか?」
「……多分」
俺が手を伸ばすと、その部分が微妙な感じに凹んだ。
おぉ、地味に触らせてくれないとかっ。
可愛い奴だな。
少し笑ったルーシュは、あの時孤児院で出会った二人が、今後自分たちに少なくない影響を与える事になるだろうと。そんな風に感じた。








