【014】『王太子殿下の趣味(自称)』
「王太子は第二聖女のファンだったのか」
「大ファンだよ」
「つかぬ事を聞くが、第二聖女が何も無いところでお前の胸目がけて転んで来たら、どう対応するんだ?」
「第二聖女がそんな女狐みたいな手口を使うわけないだろ」
どこまで信頼してるんだ? 第二聖女のこと。
「いや、もちろんそうかも知れないが。もしもの仮定として考えてくれ」
「もちろん抱きしめるね。胸の中にスッポリ入れて出来るだけ長い時間、ぎゅーと抱きしめる」
変態か?
「隣の学友が支えてくれるんじゃないのか?」
「何を言ってるんだよルーシュ。僕の学友は優秀で良く空気が読めるんだ。第二聖女が転んで来たら僕に譲るに決まっているだろう」
どこから出てくるんだその自信は?
「実はここだけの話なんだが……」
さっきからずっとここだけの話しかしてないぞ。
「僕は卒業記念パーティーに出席する予定でいたんだ」
「そうなのか? じゃあ何で出席しなかった」
そこは参加しとけよ。そうすれば事態がややこしくならなかった筈。
「衣装も新調してね」
は? 主役じゃないぞ。
「なんでわざわざ新調したんだ?」
王太子は満面の笑みで頷く。
「もちろん、セカンドダンスを第二聖女と踊るためだ」
「……」
何言ってんの?
「第一聖女殿下の間違いだろ?」
「いや違う」
そこ、そんなに食い気味に即答しなくとも。
「第一聖女殿下の為に新調したんだろ?」
俺はもう一度念を押す。
「くどい。違うと言っているだろう。彼女は元から参加する予定ではない」
いや……。王太子が参加するのに妃が参加しないって……。
「第二聖女と踊る為に、アクアマリンのカフスを新調してね。これがなかなか良い石で……。参加の準備は全て整っていた。ファーストダンスはもちろん第二王子の予定だったが。でもセカンドダンスは僕の予定(未定)だったんだ」
「………」
「しかし、何故か直前に仕事が入ってね。往復三日もかかる街道の調査に行かされた。王太子が自ら、街道の調査って? それは交通省の仕事でよくない? なんで僕なんだ……」
王太子はぶつぶつ言っている。余程不満があるらしい。それはアレだな? 意図的に参加させない為に、側近が入れたんだな。程良い距離の調査だし。アクアマリンのカフスなんか付けて参加したら大変に心証が悪い。全力で止められたと。側近も苦労するね……。グッジョブだ。結果はバッジョブだったが。
「お陰で、おも、たの、いや、卒業記念パーティーでの余興を見そびれてしまったよ? なんなら僕のポケットマネーで劇団の後援でもしようかな? 早く見たいよね? 一緒に行くんだよね?」
行くけども!? 何後押ししてるんだよ。
「お前、聖女フェチなんだよな?」
「そうだとも。側近しか知らないが。今、エース家の者にも知られてしまった」
隠してないだろ! 自分から言ったよな!
「聖女はみんな等しく好きなんだろ?」
「そんな訳ないだろ。第三聖女と第四聖女は弟だ」
「そこはそうだけども。第一聖女殿下、第二聖女、第五聖女は平等に好きなんだろ?」
「そんなことは一言も言っていない。第二聖女推しだ」
「嘘だろ」
「マジだ」
「………」
マジって。どこからそんな単語を掘り出してきた? 芝居小屋か? 好きなんだな。
 








