第十八話 君も知らない妹。
何故か突然始まったテラスでのお茶会。ゆっくり紅茶を飲んではニコニコしてるロレッタを見ていたら、裁きの庭で起きた事が嘘みたいに遠くに感じる。あんな事があったのにな……。あの日のロレッタは第一聖女というか第一聖女の祖母であるカルヴァドス期の第九聖女に、一騎打ちとはいかないまでも、シリルが介入するまで、随分と遣り込められていた。まあ、脳の性質が違うんだろうな? ロレッタも魔法式の構築など恐ろしく早く頭が回転するのだが、人の悪意や弱味に付け込む思考回路への対応は、いつも後手になってしまう。そんなものがいつも先手常勝なのもどうかと思うが、シリル辺りはむざむざと付け込まれるような甘さはない。
風が髪を浚う。ロレッタの長い水色の髪が舞っている。あの髪色を見て思う。シトリー伯爵とまったく同じ色に見える。氷の魔術師である伯爵。どう見てもロレッタの髪の色と目の色は氷の魔術師の色を継承しているが、陽に透けると七色になる。このプリズムが光の魔術師なのではないかと思わせる。微妙に特定しづらいんだよな? セイヤーズ次官長とは明らかに違うことは分かるが……。
以前侍女採用時に、ロレッタの身辺を調べさせたが、今年十歳になる弟は水の魔術師だと報告を受けた。――しかし。大分複雑な髪色をしているらしい。ブルーブロンドなのは生え際だけで、毛先はシルバーブロンド。微妙にメッシュのように混ざり合っていると書いてあった。
ブルーブロンドとシルバーブロンドなら氷か水かもしくは両方かといった所だが、瞳は深蒼となっている。正直、配色としては水の魔導師の可能性が一番高い……。が、聖魔導師はたまに蒼や藍が出る。父系統が水で母が生粋の光。母親の性質が色濃くでるか、父親の性質が色濃く出るかは時と場合による。水×光の場合は若干光が優勢という。ロレッタはどう考えても水の魔術師としてはシトリー伯爵よりも、そしてセイヤーズ次官長よりも小粒。訓練を積んでいないからとも考えられるが、大元の素養の部分で違う気がする。
ロレッタの魔法の最大のポイントはそのコントロール技術と速さ。とにかく執行までが早い。ただ大魔法となると光一択だ。これがセイヤーズ次官長に直接師事する事によってどう変わるかは興味がある。
ロレッタの弟の名はリエト・シトリー。
ルーシュの末の妹が九歳だ。
歳も近いし、会わせて置くべきか?
二人でお茶をしているのだが、二人とも一言も口を聞かない。別に意図的にそうしている訳ではないのだが、ロレッタもロレッタで焼き菓子の世界に入り込んでいるように見える……。アレは話しかけると味が分からなくなるタイプだろ?
「風が気持ちよいですね!」
「そうだな」
「焼き菓子が美味しいです」
「良かったな」
「海が見たいです」
「え?」
今、話繋がっていたか?
「海が見たくないですか?」
「……見たくはあるが……」
「……私、貧乏伯爵令嬢でしたし、シトリー領には海がありません。なので海を見た事がないのですよ」
「……そうなのか」
「エース領の栄えた港湾都市はとても有名で、自然の形状を利用したポートアイランドに大型帆船が何隻も係留していると言います。美味しい焼き菓子を出すお店が沢山あって、甘い匂いが街に溢れているって。まるで夢みたいな所ですよね」
「………」
「行きたいですね」
「………」
「行っちゃいますか? シトリー領への出張帰りに」
帰りにちょっと寄ろうって距離じゃないんだが!?
そもそも王都と逆方向に遠ざかるだろ???
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