【013】『紅の魔導師と王太子2(同窓)』
ハンターか……。つまりは王族との結婚を望んでいる子女となる訳だが……。
無謀だろ? と普通は思う。王子の妃は聖女だ。魔法素養のない男爵令嬢がどうやってハンティングするのだろう? 大公つまりかつての王子辺りでも難しい。側妃だったらワンチャンありかもしれないが。そこを目指すのが一番手っ取り早いと思う。
「お前、ハンティング対象だったの?」
王太子にお前とはぞんざいな言い方だけど、同窓だし人払いもされているから気にしない。
「もちろん。王太子だよ? 彼女の好きそうな地位だよ」
ココ・ミドルトン凄いな。王太子に秋波を送った後、脈無しと判断して、次に第二王子に攻め込んだ事になる。『真実の愛』? というよりはもう露骨な程の栄耀栄華狙いのようだが、分かりやすいといえば分かりやすい。
「Sクラスにわざわざ来たのか?」
それなら見たことくらいはあるはずだと思う。
「ああ来たさ。わざわざ教養科のクラスから。上級生のS級クラスに来るなんて良い度胸というか形振り構っていないというか。ああいう子が好みの男子はいるのだろうが、僕はピクリともしなかったね」
「……なんで?」
「なんでって分かるだろ? 学生なのにこれでもかと化粧をして、体のラインを強調するような制服に改造して、盛りすぎだろ。男を落とすための手管満載だ。ドン引きレベル。そしてわざと僕の前で転ぶんだ。わざわざ王太子の前にスタスタ歩いてきてだよ。何もない所で『きゃ』と言って僕の胸目がけて」
「………」
「ああ、怖かった。背筋に寒気が走った」
「まさか避けたのか?」
「……さすがに体面上避けるのは不味い。一応外面的には非の打ち所のない王太子という体でいるからな」
「そういう体でいるんだな」
「横に居た学友が代わって彼女を支えてくれたよ」
「それはそれは」
王太子の周りには将来の側近となる学友が囲んでいる。俺も同じクラスなのでメンバーは全員知っている。
「それ以来、気を付けて学園生活を送っていた」
王太子が一人の女子生徒と接触しないように気を付けて学園生活を送っていたのか。凄い存在感だなココ・ミドルトン。
朧気ながら、茶色のふわふわした髪の生徒が廊下をうろうろしていたのを思い出す。誰かの妹? と思っていたが王族ハンターだったんだな。上位貴族とか狙った方が可能性が高くないか?
「ある時期からまったく来なくなったな。ターゲットが第二王子に移っていたんだろう。身分的には第三第四王子の方が高いが、まだ入学していなかったし、そもそも第三第四王子達は取り付く島もないだろうし」
「確かに、第三第四王子は非の打ち所のない王子は装ってないな。留年したし」
「……留年。同腹の弟が留年」
「王族が留年って……」
そこで二人ともシンとなる。
「第三第四王子は勉学が苦手なのか?」
「そんな筈はないだろ。子供の頃からどれだけ家庭教師を付けてると思うんだ」
「……だよな」
「そういえばココ・ミドルトンも勉学が苦手でね」
「調べたのか?」
「ああ調べた。十歳まで市井育ち。学園に上がる直前に男爵の家に引き取られた。男爵とメイドの子らしい」
「まあ、それなりに良くある話だな」
「良くある話だ。だが男爵はかつてのメイドにしっかり生活費を送っていたらしくてね。豪勢な庶民だったらしい。簡単に言うと『私は貴族の子だから。貴方たちとは生まれが違うのよ』というような傲慢な庶民だったらしい」
それは大分痛い庶民だな。その痛さが今のココ・ミドルトンに繋がるのだな。
「そのココ・ミドルトンが卒業記念パーティーで第二聖女に言った台詞を知ってる? 『おお見苦しい。振られた女に睨まれてしまいました』だって。見苦しいのはお前だって。婚約者のある人間に言い寄って奪ったんだよ。略奪だよ? どの面下げて卒業記念パーティーを最後まで楽しんで行ったんだろうね? この件は一言一句変わらず芝居小屋で演目になること間違いなしだね。僕は半年後とみる。もちろんお忍びで見に行くつもりだ。一緒に行くか?」
しょうも無いものに誘うなよ! 行くけども。
「我らの第二聖女に酷いこと言うよね。許せないな」
「いつから我らの第二聖女になったんだよ!」
「学生時代からだよ? 僕は暇さえあれば聖女科の実技授業を覗いていた」
「嘘だろ?」
「ホントだ。僕が聖女フェチなのは側近の間では有名だ」
「………」
「第二聖女はさ、あのシルバーブロンドに凍て付くアイスブルーの瞳が良いんだよ。クールな容姿に魔法展開の速さも相まって、フェチ心をくすぐるんだ。ファンとも言う」
「ファン??」
「そう」
「王太子は第二聖女のファンだったのか」
「大ファンだよ」
えー。なんでそうなるんだよ? 俺は職安で転んできた第二聖女を思い出していた。クール? クールではないだろあれは。うっかり系にしか見えなかったが。








