第十一話 スプーンは一本です。
『……トマト』
そうなんですね?
そう来るんですねっ!
シリル様がくすくす笑っている。
「美味しいでしょ? ロレッタ」
「とっても美味しいですね、トマトですけども」
「蛇の生き血だと思った?」
「はい、ドラゴンの生き血だと思いました」
「え?」
「え?」
もちろん嘘です。
「……ドラゴンて王家のエンブレムの?」
「……いえ、もちろん本気では思ってませんよ?」
「じゃあ、何だと思ったの?」
「………やはり爬虫類でしょうか? 海蛇とか亀とかそういった何か? 長めのモノ? 初心者に打って付けな水の中にいる生物? でも毒に注みたいな……」
東方の魔女が滋養強壮に効くと謳っている『生き血』は亀という可能性も? もちろんアクランド王国の亀とは別物なのだろうが………。
「……きっとそういった類いのものとは、お目見えできないと思うよ?」
「そうなのですか?」
「そうだよ。 生き血は持って来ないよ? もちろんドラゴンなんてもっての外。というかドラゴンが血をくれるとかないし」
「……ですよね? ないですよね」
「ドラゴンは神聖で誇り高い生き物だし」
「そうそう。ないない」
「……という事で、蜂蜜をかけるね」
シリル様がトマトのシャーベットに蜂蜜を掛けていく。トロトロしていて甘そうだ。蜂が毎日毎日一生懸命花の蜜を集めて生成した所を頂くという、蜂にしてみればどんな暴挙?? とも言えなくもない人間の行動だが、人間も食べ物の捕食者の仲間として許して下さい。蜂さんありがとう!
「美味しいですね!」
「良かった」
すっかり王太子殿下に『あーん』をしてもらうのが、通常運行に差し掛かった辺りで、シリル様の顔を見る。トマトのシャーベットを作る為に、この冷凍木箱を購入したのだろうか? 先程それらしい事を言っていたし。
「これがしたくて買ったのですか?」
「そうだよ? ロレッタに『あーん』がしたくて購入したんだよ」
「…………」
いやいやそっちじゃなくてですね。
「トマトをジュースにして、半氷になったら混ぜるを繰り返して作ったんだ。ジュースに出来るものならなんでも出来る。砂糖を混ぜても美味しいと思うし、ミルクのようなものでも良さそうだ。もっと大きなものを購入して僕の商会で売るのもありかも知れないな」
「商会ですか?」
「そう。立ち上げようと思って、A&A商会とかどう?」
「……Aの内訳を聞いても大丈夫ですか?」
「アクランドのAとエースのA。ロレッタのLも入れる?」
「?????」
「シトリーのSでも良いけど、ロレッタの方が可愛いしね」
「?????」
何を言っていらっしゃる?
「まあ、ロレッタが入ればセイヤーズ侯爵は安く卸してくれる筈だ。何と言っても可愛い姪っ子の事だし、シトリー伯爵領に多少なりとも落とすなら、原価で交渉しても良いくらい。最終的に原価×1.5くらいで落としたい所?」
商売の為に買ったんですね!
そして次からは、安く買う魂胆で最初だけ言い値で買って油断させた???
「はい、あーんして」
シリル様はニッコリと笑う。
笑顔が眩しいです!








