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第九話 滋養強壮に効くアレ?




 滋養強壮に効く蛇の生き血など………。



 体内魔力とは生命力と対なすものだ。ゼロになれば死んでしまうがゼロにはそうそうならない。長距離を走って体力がゼロになったように見えても、けっしてゼロではないのと同じ事。


 なので魔導師も力一杯自分の魔力を使っても基本ゼロになったりはしない、魔力残量以上の魔法は行使されない。つまり自分の魔力をマイナスにする魔法は発動しないのだが、問題は自分の魔力量と同等くらいの魔法がギリギリのラインで執行された時だ。体力と違い魔力は一気に削られる。ロレッタは限度至近距離だった為、かなり危なかった。


 例外的に自分魔力量のリミッターを外す方法はあるらしいが、当然習わないし、教えないし、外に出してはいけないことなのだろう。ロレッタもあるらしいというか想像であるのだろうと感じているだけだ。それは禁術周りの話的に。 



 それはそうだとしても、ここからは回復するだけなのだが、この回復が想像以上に時間が掛かる。元々痩せていたが、そこに一週間近くの絶食と続く療養食で更に痩せた。これもこれでそろそろ痩せすぎの域を超えそうで怖い。


 何か? 何か手っ取り早く太れるもの。元気になるもの。魔女の栄養補助食が闇で売られていると聞いた事がある。どんなものなのだろうか? 噂では爬虫類なのではないか? と言われているが、もしも、もしもドラゴンなんて事もあるのではないだろうか?  


 伝説のドラゴン。見た事はないが、架空の生き物という訳ではない。実在している。しかし――流石にドラゴンにお願いして生き血を分けて貰うのは……。最早人という存在ではなくなるような……。竜族とか?  


 ドラゴンとは王家を守護する存在。魔力を極めた最高位の生物。人間がどうこうして良いものではない。王家の紋章は双頭竜だ。光のドラゴンと雷のドラゴン。剥がれ落ちた鱗を、丁重に貰うくらいが関の山だろう。アクランド王国法は密猟者は死罪という重い罪を科している。魔女も密猟などしない。つまりドラゴンの生き血が存在するのなら、ドラゴンと何らかの契約を結んでいる者が、契約の代償に何かを捧げ等価交換で貰っている事になる。


 ドラゴンについてじっくり考え始めていると、ロレッタの看病をしてくれている侍女がシリル様の来訪を告げた。




 侍女に続いて入って来た彼は、何か木の小箱のようなものを抱えている。凝った意匠をしていて可愛いものだ。大切そうに持っていた。何が入っているのだろう?


「ロレッタ、ちゃんと療養していたかい?」

「……はい。まだ体は思うように動かないのですが」

「蛇の生き血が欲しいって言ったのはホント?」

「そうなのです。一日も早く侍女職に復帰したいのと、第五聖女宛のポーションを追加したいのと、水魔法の練習をしたいのと、クロマルにお礼をしたいのと、薬草畑を確認したいのです」

「やりたい事が一杯だね」

「……はい。沢山あります」

「第五聖女の元へは君が沢山作り置きしてくれたポーションを持って第三王子が通っているよ。聖女科の畑は教会自体にテコ入れが入って、専門の農夫を雇ったから大丈夫。セイヤーズ侯爵には君が水魔法を習いたい旨は伝わっていた。そしてクロマルには僕からグリルチキンをあげておいたよ」

「本当ですか!?」

「本当。君が遣りたそうにしていることは遣っておいた。だから安心して休んでくれ。決してベッドから落ちて鼻と唇を強打して血を流して突っ伏さないで欲しい」

「…………」


 ロレッタは顔が赤くなる。今朝の事を言っているのだ。突っ伏すつもりはなかったのだが、動けなくなって蛙のような格好で血溜まりに顔を突っ込んでいた。あれはあれで窒息するかと思った。血も結構侮れない。


「結構血も凶器ですね」

「……うん。口と鼻が塞がるとね」

「血が生温かくて気持ち悪かったです」

「……うん。流し経てだからね。体温と同じくらいはあるよね」

「そうでした」


 シーンと静けさが漂う。


「だからね、ロレッタ」


 シリル様は大切に持って来た木箱と空ける。

 その中には陶器の器が入っていて、赤い何かが乗っていた。

 そして冷たい冷気が漂う。


 ロレッタはこの箱と似た箱を知っていた。

 自分の父親に見せられた事があるのだ。

 あれはまだロレッタが正式に婚約破棄する前で、もっと小さな物だったが、父がロレッタを元気付ける為に凍らせた葡萄を食べさせてくれた。


 あの箱とそっくり。

 そいうか冷気の出方から原理は同じだと考えられる。

 シリル様が持っている?


「これはね? セイヤーズ侯爵から特別に売って貰ったんだよ」

「伯父様からですか?」

「そう。まだ試作品一号らしいから手放す気は無いって言っていたのだけど、どうしても欲しくなってしまって。無理を言って売って貰った」

「……へー。そうなのですね」

「ここに入れると食べ物が凍るんだ。シトリー伯爵が長い研究の末、完成させたと言っていた」


 ……いや。

 そんなに長くは……。

 多分、父の事だから思いつきだと思う。

 ここ最近の。


「シリル様、ちなみにいかほどで購入したのですか?」

「それはね」

「それは」

「シトリー伯爵による永久メンテナンス付きだから」

「……なるほど、で」

「そう。これは別荘三軒分くらいかな?」



 ロレッタは止まり掛けていた鼻血が再噴出した。







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― 新着の感想 ―
[一言] 侯爵…吹っ掛けたな!(笑)
[良い点] シトリーお父さん、そんな稼げるならロレッタさんにちゃんとお小遣いあげてェエ!と叫びました… がんばれシリル様。
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