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第四話 水の魔術師と氷の魔術師Ⅳ



 つまりエース家の若造がユリシーズにとってのローランドという事になる……。

どういう事?





 兄妹……。

 とも違うだろうし……。


「ロレッタはエース家の若造と兄妹のような関係なのか?」


 ユリシーズは静かに首を振る。

 違うんだな?


「じゃあ恋人?」

「……恋人ではなかったよ」

「友人か?」

「友人ほど対等じゃないと思う。少し入ってはいそうだけど」

「じゃあ主成分はなんなんだ」

「主従に少し友情めいた何か。甘い雰囲気はしなかったけど、主人として尊敬しているような、敬意を示しているような。恩人のような……強いて言うなら忠誠心。それが一番近かったよ?」

「…………」


 忠誠心?

 それは騎士が王家に持つものだろ?

 なんでローランドの姪がエース家の若造に忠誠心?

 路頭に迷った所に、手を伸ばされて心酔してしまったというものだろうか?

 犬が主人絶対のような関係。

 しかし飼い犬と主人の関係は得てして強固。


「ロレッタの心中はどんな感じなのだ? 王太子妃になりたいとか、侯爵夫人になりたいとか、聖女を極めたいとか、セイヤーズ領でのんびり過ごしたいとかあるのか?」

「……たぶんアレだよ」

「アレ」


 ユリシーズはゆっくりとした動作でティーカップに口を付ける。

 サンルームの日差しは温かくて、部屋中に光が広がっている。


「兄上に水の戦闘魔法を教わって、更に週に一回大学に行ってポーション等級を上げ、魔導師としての腕を上げながら侍女としてスキルアップをし、エース家の侍女長とか目指したいんじゃないかな?」

「侯爵令嬢がか?」

「落ちぶれた伯爵令嬢のつもりじゃない」

「侍女長???」

「そうそう」

「結婚は?」

「考えてなさそうだったよ? 第二王子との婚約破棄の衝撃で婚約とか結婚には夢を見ていない感じ」

「……無理強いをするつもりはないが、そこは必ずしてもらうがな」

「セイヤーズ家当主は容赦ないね」

「まあな。甘やかしと可愛がる事は違うからな。役目は果たさせる」

「ふーん」

「お前はいつシトリー領に帰るんだ?」

「帰らない」

「………領政は嫌か?」

「可哀想な事が一杯起こる。病も飢えも見ていられない。ひたすらに現実だけが地平線に広がっていて、生きる事は労働だとあの地が言っている。可哀想な子を沢山見た。やがて目を開けていられなくなった……」

「………」


 ローランドは弟であるユリシーズをじっと見る。少し感受性が高い性質だから、現実を突きつけられる領政は苦しいのかも知れない。助けたくて借金を背負ったか? 私財も投資したのだろうな? そういう細やかな神経を持っていると領政はやりにくい。ローランドなら決して私財は投資しないし、借金は単純な救済には使わない。利の方が上回らなければならない。そうでなければ救える力が一過性になってしまい続かない。


 セイヤーズ侯爵家をユリシーズが継いでいたら傾いたかというとそんな事は起こらない。実際領政をするのは父であり祖父であり退官後の自分でありセイヤーズ一門なのだから。名目上の話なだけだ。


「………そうか。ならば敷地内の研究室の鍵を預ける。フラフラさせておく気はない。氷の魔導師として間接的に領地を支えるんだな」 


 テーブルの上に置かれた木箱を手に取る。開けると中から冷気が漂う。

 素晴らしい魔道具だ。これは商品展開したら高く売れる。原価率十パーセントくらいで高位貴族に売り出すか? 枠にはコストが掛からない、問題は魔石。魔石が原価の殆どを占める筈だ。魔石の質によって値段が変わる訳だが、出来るだけ安価な魔石で済ませたい。その為には魔導式の質が重要になる。しかし、その魔法式の公式はユリシーズが構築済み。


 水ならまだしも氷の魔法式に魔術を流せる人間なんていないので、これはセイヤーズだけの専売特許になる筈。


 氷漬けになった葡萄を取り出すと、希少価値の宝石と同等。いやそれ以上の物に思える。



「兄上、口の端から悪い感じの笑みが零れていますよ?」








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― 新着の感想 ―
[一言] 流石お兄様、抜かり無い(笑)
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