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第二話 水の魔術師と氷の魔術師Ⅱ



「それはさ? 分かるだろ兄上にも。彼らは巡り巡って必ず出会う。それは誰にも邪魔出来ない。今世は侍女と主人として職安で出会っただけさ」




 ローランドはその言葉を自身の中で反芻する。巡り巡って必ず出会う。彼らはそんな関係。ユリシーズがそういうのであれば、そうなのだろう。伝説の大聖女。子は一人も残していないはず。


 水の魔術師一族の中に繋がった?


 もちろん伝説の大聖女は多重魔法使い(マルチキャスター)。光をメインに水も使いこなしたというから、無しではないのだが……。ユリシーズの妻は曾祖母が聖女。だから不思議ではないのだが、どちらかというとセイヤーズの五代前の当主の妻。つまり高祖母こうそぼが光の侯爵家からの輿入れした事の方が重点な気がする。


 繋がった可能性。王家は何代も聖女を妻としている家系が故、もちろん光の侯爵家の血縁は入っている。光の侯爵家は過去何人もの聖女を出していたから。しかし、近年光の侯爵家から聖女は一人も出ていない。


 光の侯爵家に何があったか分からないが、いや推測レベルでは憶測出来るのだが、聖魔導師は出しているが、聖女は出していない。この聖女と聖魔導師の判別は難しいのだか、単純に聖女判定を通っていないということになる。


 聖女判定とは、光属性の子供を選別する為に行われるものなのだが、よくよく考えるに、聖魔導師を一人無償で王家に取られる訳だから侯爵家としては、難しい所になる。侯爵家の跡継ぎは魔法素養の一番高い者。つまりは聖女になる事が多分にある。そうすると継嗣けいしが魔力素養が二番目の子になるという必然が生まれる。国母になればお釣りは来るかも知れないが、何代も続いてとなると侯爵家の維持に支障を来す。


 しかし、侯爵家が栄えて王家が衰退など本末転倒だ。我らは王家を守る者。王家の臣下なのだから。けれど盾が弱くては守れないという現実もあるにはある。


 公爵家は王家の傍系な訳だから、当然本家優先の考え方を持っている。なのでやはり何代もの聖女を輩出して来た。しかし公爵家は王家の親族という大前提がある。血の繋がりでいえば必ず遡れば繋がる。遡らなくても直ぐに繋がる場合の方が多い。


 ユリシーズの妻は公爵家からの輿入れだ。セイヤーズ本家ならばともかく一代目の伯爵位に嫁ぐとは良く許されたと思う。なんでも子供の頃から体が弱く、光魔法が安定して出せないからというのがその理由だった。


 どこかふわふわした義妹なのだが、こちらも贅を尽くすというタイプとは程遠い。しかし伯爵の本妻として領政を振るうというのとも違う。二人の子供を産み、自分の役目は存分に果たしたという感じで、日々のんびりと浮世離れした感じで過ごしている。もちろん家政もしない。しかし当然といえば当然だし、シトリー家としてもというよりはセイヤーズ家としても働かせるつもりはない。日々恙なく生きてくれれば結構。そして子を二人も成したが、特に体調は壊していない。割と元気だ。しかしそこは追求してはいけない部分。ついでにこの義妹を貰う代わりにセイヤーズ家は甥を婿に差し出している。甥と言っても父の弟の子だ。魔力素養は叔父の子では一番高かった。


 公爵家の直系と傍系の甥では対等ではないと思われがちだが、身分など関係ない。魔力素養の高さが同じなら対等なのだ。そもそも公爵家自体が既に王家の傍系な訳だから、直系をというのであれば六大侯爵家の方が賢者直系の血筋に当たる為、価値が高い。甥というのは親がセイヤーズ直系な訳だし。



 光の侯爵家の初祖は初代王妃の弟だ。彼女と同質の血が繋がれているのはここだけだと言われている。本人が子を産む前に死んでしまった事が残念でならないが、それはもう過去の事。彼女の血統継承は別の道から弟一族が長く継いでいる。



 ロレッタは幸か不幸か王家には嫁がなかったが……。あの目に焼き付くほどの聖魔法。一度目にしたら忘れない。弟の魔法を見た時と同じものを感じた。あれは聖女にならなければ次期セイヤーズ当主になる器だ。もちろん第一義にローランドの子がセイヤーズ当主になるのだが、直系即ち、自分の兄弟から魔力素養の高い子を養子にし、次期当主にするのは全然ありだ。


 ロレッタに関しては書類上は既にローランドの娘となっているから、更に有な訳だが……。聖女だから当主にという訳にはさすがにいかないだろう。これがきっと光の侯爵家と同種の悩み。



「王家から何か言われた?」


 弟の問いにローランドは首を横に振る。


「……いや、まだだ。だが時間の問題だろう」

「まあ、そうだろうけど」


 王太子妃と第二王子妃では同じ王子妃であっても重みも役割も比ではなくなる。側妃の息子である第二王子の妃はそれほど役目が重くない。しかし王太子妃となるならば後ろ盾はシトリー家に任せる訳にはいかない。そもそも貧乏過ぎて任せられないし、身分的にも少し苦しい。王宮で肩身が狭くなってしまう。そんな可哀想な事は出来ない。


「ユリシーズはその場にいなかったから分からないだろうが、あの場で抗体を構築して自身の体に流したんだ。誰もが目を疑ったよ? なんだ今の聖魔法は、高速演算過ぎて見えなかった。それどころかあの場で瞬間構築したというのか? 嘘だろう。底力が計り知れない。神の御業とまで……」


 実際ローランドの心の中は、失われるかもしれない姪の命の前で、脳が焼き切れるかと思った。自身が今出来ることはないかと目まぐるしく思考していたが、半分焼き付けを起こした。


 弟の自立の為、そして弟夫婦の手前、姪と甥には距離を置いていたが、もう置かない。こんな心配事は二度と御免だった。弟の親としての立場などを尊重して姪の命を失ったら堪ったものではない。天秤に掛ければ弟の自立より姪の命の方が大切。死んでしまったらもう取り返しがつかないのだから。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 再開ありがとうございます!伯父様が良い方で良かったですねロレッタさん…しかし段々ヘビーなお話になってきてドキドキしながら楽しみにお待ちしております。ロレッタさん、侍女道極めルートも戻れませ…
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